第七話『記憶は何れ鍵となる。』

(ピチャン)


水の滴る音がする。

その音を聞く度、何かが俺の中で込み上げてくるような。



「そういやここって…」



俺は今から数分前の記憶を辿った。


そういや、湯加減がどうとか言ってた気がする。

まて、湯加減?

水の滴る音?

それに俺が転んだ時、床がぬるぬるしていたような…


ちょっと待てよ。


それに当てはまる部屋があるとしたら、もしやここって───



「ここは浴場ですよ?」



思わず目が点になった。

そして見事俺の予想は的中した。


つまり俺は、ここ──浴場で女の子と二人きりにも関わらず、おまけに顔にコンポタぶっかけて更に足を滑らせて押し倒してしまったということになる。


まぁこんな可愛い美少女にとんでもない事してしまったんだ。

しかも平凡な俺が女の子を押し倒せる事が出来ただなんて、もう一生の悔いなしってやつかな。

あぁ、でも俺童貞のまま死ぬのかぁ。

それでもいっか…



「さようなら、マイ・ライフ」



「…何言ってるの?」



即効突っ込まれました。

そういや、なんで俺はこの子に呼ばれて…


俺は呆然と彼女を見つめていたその時。

ピキンッと俺の身体に異変が起きた。

これは─── !


人は何かに夢中になると、他のことを忘れることがある。(人にもよるが。)

そう、俺は何かを忘れていたことに気付いてしまったのだ。

つまり、それは。



「あの…さ…」



俺の額に大量の冷や汗が流れる。



「トイレ…どこ…」



俺、そういや用を足してる時に異世界召喚されたんだった。





「いやぁ!助かったぁ!すっきり快調ってか?我慢していた分、一気に放出〜みたいな?」



用を足した俺は超元気。

まるで世界が変わったくらいにも感じる。

いや、異世界にいるんだけれども。


しかし、目の前にいる彼女は少し引き気味の表情をして俺を見ていた。

そういや女の子居たのを忘れていた。


自分の馬鹿みたいな発言に今更恥をかいた。

少しでも何かちょっとした話題でさっきの発言を無かった事にしなければ、自分の印象は最悪なものだと悟った。



「そういや制服着てるけど、結衣ちゃんって何歳なんだ?」



「…」



しまった。名前呼びは不味かっただろうか。

俺が慌てて言い直そうとしたその時、彼女は口を開いた。



「じゅうよん…」



「ロリ魔王とな。」



思わず呟いてしまった。

今日はやたらと口が滑る日だな。


するとロリ魔王さんは俺を睨みつけた。

怖いどころか可愛くて恐怖を感じない。



「ロリじゃない!ほら、胸あるでしょ!」



『そこかよ!!』



思わず心の中で叫んでしまった。


確かに十四歳としては、まぁまぁいい成長というものか。

巨乳とは言えないサイズだが。



「ずっと見ないの。」



彼女がさっき脱いだ鎧の一部が真っ直ぐ俺に向かって飛んできて見事、俺のおでこにヒットした。

ぶつかった衝撃で首が一瞬もげるかと思った。

危うくここで俺の異世界生活が終わるところであった。



「この部屋…」



数分前、腹痛に悩まされた俺は彼女に瞬間移動みたいなものをさせられて、気付けばトイレに居た。

そしてトイレから出ればさっきの浴場とはまた別の部屋。

まさにどうなってんだ状態である。


と言うか、なんで最初浴場で俺を呼び出したんだ。

場所を考えてほしかった。


かと言って今いるこの部屋も、少し変わっている部屋…というより…



「寝室ですけれども。」



「場所を考えてくれ…」



平然と答えるこの子が怖くも感じる。

浴場の次は寝室か。

これが異世界じゃなかったら…いや、やめておこう。


彼女は首をかしげて、なんで?と言わんばかりに俺を見てくる。

そんな純粋な目で見ないでほしい。

男は皆変態なんだよ!



「だって、こういう所じゃなきゃ私の仲間があなたを殺しにくるわ」



つまり、仲間が来ない場所なら俺と堂々と話せるという事だというのだ。

俺は口元が引きつるような笑顔になった。


ふと、大きな疑問が俺の脳に思い浮かぶ。


「待ってくれ、そんなに俺の存在ってやばいのか!?」



まるで一瞬、時が止まったかのような静けさが部屋を包む。




「だってあなたは勇者だから。」




その時俺は、彼女の空っぽに感じる笑顔に今までにないくらいの恐怖心を抱いた。

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