第六話『それは宣言であり、現実である。』

彼は殆どの仲間を勇者によって失ったと言った。


でもそれより、冑を外した彼を見て驚いていた私がいた。

彼の頬には大きな傷があった。

誰かに切りつけられたかのような、そんな傷だった。

しかし、それ以前に彼の顔を見て大きく驚くことがあった。

そんな私の視線に気付いた彼は涙を手で拭い笑った。



「本当、そっくりだろ?」



さらさらと流れる白い髪。白い睫毛に白い肌。

赤くルビーのような瞳。

そして何より、彼の顔は私に酷似していた。



「この姿を見られたら、君は怯えると思ったんだ。」



彼は寂しそうに笑った。

そんな彼の表情に、胸が押し潰されるように痛かった。

もうこれ以上悲しそうな笑みをする彼に我慢が出来なくなり、私は彼に抱きついた。



「無理…しないで」



自然と涙が溢れてきた。

同情なのか、悲しくて泣いているのか。それとも彼の涙につられたのだろうか。

色んな気持ちが入り混じって、自分の気持ちがわからなかった。

でも一つだけ願うことがあった。



「本当は笑う余裕なんてないくせに。」



彼に素直になってほしかった。

どんな時でも笑っている彼がとても無理をしているように見えたから。

彼と私が姿が似ていようとも、今は関係なかった。

そんなのは、後からまた話せばいい。

だから今は彼を助けてあげたい。


彼は私を抱き寄せた。



「ありがとう。」



彼は泣きながら、そう呟いた。


それから私達は二ヶ月間、仲間を集めたり国を立て直したりした。

元々大きくない国だったので、立て直すのにもあまり時間はかからなかった。

そしてまた、黒の魔王は名を取り戻したのだ。

だけれど、彼は自分にはもう時間がないと言った。

勇者たちに死の宣告という魔法をかけられたらしい。

彼の寿命は長くても一ヶ月すらもたない。



「君に魔術を教えておく。だから次の魔王は、君に継いでほしい。」



それが最初から彼の願いだった。

自分に一番似ている…近い存在の私を異世界召喚し、魔王を継いでもらうということが、私を呼んだ本当の理由だった。

彼はずるい。ここまで一緒にいたらもう、断ることが出来るはずもなかった。

最後まで彼の傍に居たいし、仲間を裏切るようなこともできない。

私は彼から色んな魔術を教えてもらうことにした。


しかし日が経つにつれ彼に死が近づいていく。

ある日、彼の腕に見たこともない文字のような痣に気付いた。



「その痣…」



「あぁ。今日で私は死んでしまう。」



死の宣告というものが、どれほど残酷な物かが思い知らされた。

いつ死ぬかはわからない。だが、最後の日だけは腕に痣がわかるという、宣告。

彼は宣告を受けた者は、最終日に体中を焼かれるような痛みが走り、終いにはこの世から消えてしまうという呪いのようなものだと言った。



「そんな死に方は嫌なんだ。」



彼は私に言った。

そして、うっすらと気付いてしまった。

彼はそんな終わり方をするなら、その前に…ということだと。



「…頼んだよ。」



勝手に呼んでおいて、勝手に先に逝ってしまうだなんて、受け入れたくない。

最後には私の手で自分を殺せというのだ。

そんな彼を私は無責任に感じた。


彼がいない世界なんて考えたくもなかった。

こんなにも彼が大切で、欠かせない存在なのに。

でももう時間がない。


私の瞳から、ぼろぼろと涙が零れ落ちた。


それは人を殺める呪文を彼が教えた理由がわかった時だった。



「ありがとう。結衣。君と出会えて良かった。」



私は歯を食いしばった。

本当に、彼は無責任な人だ。

でも、そんな彼を…



「────────」






「重い話になっちゃったね。」



この世界で彼女に何があったか、それはとても悲しい話だった。

俺はこの世界でどう生きていくのだろうか。

彼女と同じく、大切な人を失ってしまったりするのかな。

大きい不安が俺を押し潰そうとする。

でも、彼女もそうだ。

そんな辛い過去を背負って生きてて、不安にならない訳がない。



「じゃあ、なんで俺を…?」



「あなたが必要だから」



彼女はとびきりの笑顔で言った。



全く。どうやら俺の異世界生活は、かなり大変そうだ。


俺は思わず苦笑いをした。

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