第十三話『一週間後』

「なっ…にっ…!?」



堂々と腕を組み立つ俺の姿を見て奴は驚きを隠せていなかった。

俺も驚いている。

本当にやってしまった。この次はどうしよう。


最悪、コンポタでなんとかするしか無い。


かと言って、あの時どうやってコンポタを出したのか上手く思い出せない。

って、コンポタの事より今のこの状況をどう打破するか考えなくては…


相手はゴブリン。

もし怒らせでもしたら、それはもう命が終わるというか…



「貴様ァ!!舐めたことをしやがりおってぇぇぇ!!」



───早速ゲームオーバーじゃないか。


頭に血管が浮かぶくらいに奴は怒っている。

これは本当にどうしようか。


もちろんこの試合を止める者は誰もいない。

待てよ?

この試合…勝敗はどう決まるんだ?

勝負と言われて戦ったんだ。じゃあもしかして、どちらかが参ったと言うまでなのか?

それとも審判が…いや、見たところ審判はいない。

つまりこの勝負、俺が生き延びているだけじゃ永遠と続くかもしれないって事じゃないか。



「待ってくれ。」



俺の言葉に思わず奴は動きを止めた。

寧ろ自分が堂々とし過ぎてて奴は俺がどんな発言をするか伺っているのだろう。

下手な事は言えないこのチリチリと痺れるような空間。

この空気を味わうなんて、できれば経験したくはなかった。



「この勝負…どうやって勝敗を決めるつもりなんだ。」



突然辺り一帯が静かになる。

聞こえるのは風で揺れる木々の音。


そして数秒経った後、辺りは急にざわついた。



「確かにな。いつもなら判定者がいるからな。」



観客共の中から確かにと言う言葉が次々と出る。

そして何処に居たのか、鎧姿の結衣は観客の中に混じっていた。

魔王の存在に気付いた仲間共は一斉に俺達へ続く道を開けていった。



「審判がいないこの勝負、無効としようではないか。」



結衣がその言葉を言ったその瞬間、俺は心の底から救われた。

とてつもない感謝を結衣に抱いた。

ありがとう。魔王様。魔王様万歳!


しかし、それに納得いかない奴が居た。



「魔王様!どうか戦いを続行させてください!」



俺との戦いを必死に望むゴブリン。

何故こいつは俺とこんなにも戦いたがっているのかがわからない…

そうだそうだと追いをかける観衆共。

やめてくれ。まぐれが続かない限り俺の命の保証はないんだ。



「では一週間後、そこの新人とそなたが戦うことを許そう。それを軍の入試試験とし、審判は幹部に任せよう。」



魔王の発言にゴブリンは仕方なさそうに頷いた。

そして俺をキッと怖い目で睨みつけた。

その視線に俺は冷や汗ダラダラ。



「一週間後、覚えてろよ?」



立ち上がったゴブリンは俺とすれ違い様にそう言い残した。

そして魔王がその場から去った後、観衆共は次々に散らばり、気付けば周りには全てが幻だったかのように誰も居なくなっていた。

全ての緊張が解れたと共に俺は思わずその場で腰を抜かした。



「し、死ぬかと思った…」



さっきまでの恐怖を表に出さないようにしていたせいか、どっと汗が流れ出した。

心臓も強く脈を打っている。

こんな奇跡、次はない。一週間後…俺はどうすれば良いんだ…?


瞬きをした一瞬で、目の前の足に俺は気付いた。

視線を上げるとそこにはどこから来たんだ魔王様。

いや、今は鎧を着ていないから結衣か。

お前はいつの間に鎧を脱いだんだよ。



「本当、見栄を張りすぎなのよ。死んだらどうするの…」



呆れ顔の結衣。

流石に自分のとった行動は結構死と直面したものだったのだろう。



「でも生きてるからいいだろ…?」



少し休ませてくれと言わんばかりに空を見上げ座っている俺。



「それより、ゆうまには休む暇は無いからね?」



ん?と目をまん丸くして思わず固まる俺。

休む暇はない?あ、そういや一週間後はまたゴブリンとのバトルだ。

まさか今から身体を鍛えろと言うのか?

あの強靭な身体を見て思う。一週間であの身体に勝る肉体を持つのは流石に無理だ。


すると突然結衣は俺にぐっと顔を近付け、少し悪戯な笑みをする。




「今から、あなたを壊すから。」

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