第四話『彼女の過去①』

時は今から二年前。

あの時の事は今でも鮮明に覚えている。


それは、学校へ登校中の出来事だった。


その日は、真夏にしてはいつもより流れる風が酷く冷たく、まるで冬のように寒かった。

当然、その異常気象は日本中が驚き、地球が終わるだとかでニュースはそんな話で持ち切りだった。


休もうと思いもしたが、その日は学校でテストがあったので休む訳にはいかなかった。


それ以前に、何故かどうしても学校へ行かなければならない気がしていた。


普段なら夏服で登校するものの、外が寒すぎて上着を着なければ凍えてしまいそうなくらいだった。

その日だけは真夏とは到底思えもしなかった。


まるで、別の世界に来ているように思えた。


家を出た時間が少し遅くて、遅刻しそうだったので私は走っていた。

すると突然、誰かに私の両足を掴まれたような感触がしたと同時に、私は思いっきり転んでしまったのだ。


けれど、思いっきり転んだ割に身体は全く痛くはなかった。

それどころか、地面が柔らかくてかなり冷たかった。



「あれ…?」



気がつくと、目の前の地面は真っ白だった。

アスファルトとは思えない白さと柔らかさ。

起き上がり、柔らかい地面を手ですくってみた。


それは間違いなく、雪だった。


家を出た時は雪なんて降ってないし、こんなにも積もってなかった。

頬に降ってきた雪がついた時、大きな不安が私を押し寄せ、嫌な予感がした。

私は少しずつ、地面から周りへ視線を移していった。


そして、これまでにないくらいの恐怖が私を覆った。


目の前には果てしなく続く雪道。

建物もなければ人もいない。

ただっ広い真っ白な世界の中、取り残されたような感覚。


悪い夢にしては、感覚が現実的過ぎる。


私は立ち上がった。

もちろん寒かったけれど、それよりも恐怖心の方が強かった。


私は闇雲に走った。


ただ、雪以外の景色を見たくて、ひたすらに。

それでも木の一本を見たかった。


でも、何処へどんなに走っても雪しかなかった。

それ以外のものは何も見つけられない。

一体ここは何処なのだろう。


酷く身体は冷え、強い眠気が私を襲った。

テレビで見たことがある。

雪山で遭難し、眠った人は凍えて死んでしまうと。



「やだ…こんなの…いやだ…」



もちろん死ぬのは怖い。

でもそれ以上に一人というのが怖かった。

悪い夢なら早く冷めてほしい。

こんな非現実的な事があって良いのだろうか?


理解どころか考える気力もなく、強い眠気にひかれた私はもう、目も開けていられなかった。




(ザッ、ザッ)



何かが私に近付く足音がする。

そして、身体を誰かに身体を持ち上げられ、抱きかかえられた。


寂しかったな。もう大丈夫───


そんな言葉が聞こえたような気がして私は安心したのか、そのまま眠ってしまった。





目を覚ますとそこは、見慣れない部屋のベッドで私は寝ていた。

部屋の中は暖かく、優しい花の香りがした。

枕元には見たこともないような綺麗な黄色い花が一輪置いてあった。



(ガチャ)



扉を開いた音がして、思わず扉の方を見た。

そこには大きな鎧を着た人がいた。



「…怯えないんだな。」



彼は聞いてきた。

少しびっくりはしたけれども、私は怯えなかった。

何故なら、彼が私を助けてくれたと思ったから。


それに、あの時聞こえた声と一緒なのだから。



「怖くないですよ。あなたは良い人だと思うから。」



すると彼は少し下を向いてしまった。

今彼がどんな表情をしているのかは、冑をしている限りわからない。



「良い人ではない。君をこの世界へ呼んだのは私だからだ。」



気の所為だろうか。


彼の声は一瞬、悲しそうに聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る