第三話『魔王を見つめる高校生』

「おんなぁぁぁぁあ!?」



俺は思わず驚き叫んでしまった。

裏声交じりのその声は、さっきまで静かだった部屋全体に響き渡った。



「しっ、静かにして!!」



声を抑えて話す彼女はすぐ俺に両手を強く押し付け、口を塞いだ。

ツンっと鉄の濃い臭いが鼻を包んだ。

鎧ってこんな臭いするのかよ…思ったより鉄くさいな…


しばらくその状態でいると、コンコンっと扉を叩く音が聞こえた。



「魔王様、今何か大きな音と声が聞こえましたが、何かありましたか!?」



扉の先から誰かの声がした。

その声が聞こえた瞬間、彼女はビクッと肩を上げ驚き、その様子はまさに焦っているように見えた。



「何でもない、気にするな!」



彼女は少し詰まった声で扉の先に返事をした。

俺はこの瞬間、わかったことが二つだけある。


俺と彼女以外この部屋にはいないこと。

そして、今俺が跨り乗っている女の子は、魔王様だということ。



───混乱してきた。



俺は一体どんな顔をしているのだろうか。


改めて俺は彼女を見た。

髪は見たところ、肩ぐらいまでの長さだろうか、それにしても綺麗な黒髪だ。

顔も可愛いし、でもなんか若干幼いような…まさかロリ…


…俺は何を考えているんだ。

相手は魔王だぞ。ロリなんて言ったら殺されちまう。


でもしかし、こんな可愛い子の上に跨っている俺って、もう殺されても仕方ない状況じゃ…



「それと魔王様、お湯加減は大丈夫でしょうか?」



自然に、不思議な単語が俺の耳に入った。


『…お湯加減?』



「平気だ、ちょうどいいからお前はもう向こうへ行け!」



「はっ。」



気付けば扉の先の人と彼女の話は終わってしまい、俺の素朴な疑問を考えている暇がなかった。

はぁ、と彼女は小さなため息をした。


気のせいだろうか。

まるで彼女が俺の存在を隠しているかのように思えたのは。


彼女は俺の脇に手をかけると、いとも簡単に俺の身体を持ち上げた。


俺はまるで、高い高いをさせられているような状況になってしまった。

そんな状況だから気付いたことがある。


彼女の身長がめちゃくちゃ高い。

身長178センチある俺でも、床に足が全く届かない。

それどころか、少なくとも、目測だが30センチくらい床から俺の足は離れているだろう。


なんだ、顔は幼いのに身長は化け物じゃないか。

流石魔王様、恐ろしゅうございます。


そして、ひょいと俺は少しばかり小さな椅子に座らせられた。

座ると改めて彼女の身長の高さを実感する。

俺はまるで幼い子供が親を見上げてみるような、そんな状態だった。



「あ、ごめんなさい、これじゃあ話しづらいよね、少し待ってて」



すると突然、彼女の着ている鎧の隙間から淡い紫色の光が漏れだした。

一体何が起きるというんだ?


そして俺はこの世界を実感した。


俺はやはり、本当に異世界へ来たんだ。


彼女の鎧が、一つ一つ剥がれていき、そのパーツは彼女のまわりで宙を舞っていた。

鎧が彼女から離れる度に、彼女の姿は露になっていった。


全ての鎧を外した時、彼女と鎧達は浮いていた。

さっきまでの身長とは違って、小柄で可愛らしい女の子だった。


だがそれ以前に、俺は絶句していた。


問題は彼女の姿ではなく、その服だった。

…その服は俺のいた世界ではこう呼ばれていた。



「セーラー服…だと…」



仰天するなんてものじゃない。もはや手が震えていたのだ。

何故この世界にセーラー服なんてあるのか。


答えは三秒後に出た。



「私も、あなたと同じでこの世界に召喚されたんです。」



もはや言葉も出なかった。

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