第二話『生き延びられたらスープはコンポタがいい』


公園で用を足してる途中で、公衆トイレごと異世界の硫酸みたいな泥沼のど真ん中に召喚された俺、二瓶 悠真。

ベジタブルなんとかっていう、呪文的なものに見事トイレから脱出し、気付けば謎の部屋にいて泥沼からは救われた。


ところが今、鎧を着た化け物が俺に剣を振りかざしているんだ。


結局命は助かってはいない。

こうやって今までを振り返ってる時間があるのになんで逃げないのかって?


答えは簡単さ。

目の前のやつが剣を振り上げているのに逃げても、もう遅いんだ。


…物事のあまり、腰を抜かして動けないのが一番の原因だが。



「あ…え…」



喉の奥からやっと出た声がこれだ。ビビってこんな声しか出ない。

息が詰まっているような、喉奥が痛苦しい感覚。

本当に声が出ないって、こういうことなんだな。


そして、鎧の化け物は勢いよく剣を振り下ろそうとした。

とっさに俺は反射的に右手を伸ばし、押さえる行動をしてしまった。


これが俺の死に抗うってことか。


でも、異世界に来てこの最悪の状況の今、何故か死なない自信があった。

それは伸ばした右腕だった。

今なら光でもなんでも出せる気がする。そう、この世界なら不可能を可能にできるかもしれないという強い気持ちがあった。


もし生き延びられて、あったかいスープでも飲めれたら大満足だ。



「うおあぁぁぁぁあ!!!」



広げた手のひらから、熱い何かが勢いよくレーザーの如く放出された。

そして、その放出された何かは見事に化け物の顔に命中した。


これは所謂魔法ってものなんじゃないか?



「っ!?」



化け物はすぐさま頭…冑を外し、その場でしゃがみこんだ。

今がチャンスと、急いで立ち上がろうとした…が、さっきまで腰を抜かして立てなかった俺だ。

そんな咄嗟には立てなかった。


おまけに床がぬるぬるしていて、よく滑りやがる。


立ち上がろうとした、足を滑らせて体が前のめりにバランスを崩してしまったのだ。



(ガシャンッ!)



俺はそのまま転び、化け物を押し倒して上に乗っかってしまった。


まさに床ドン。


人生で初めて押し倒したものが金髪美少女じゃなく、まさかこんな恐ろしい化け物とは、想像していなかった。


そして俺は完全に逃げるチャンスを失った。

最後に思うことは一つ。



────神様、俺は来世、生まれ変われるならもっと平和に過ごしたいです。



なんか涙出てきた。


すると突然ふわっと果物のような甘い、いい香りが鼻腔をくすぐった。

それと同時に、鎧の化け物の顔の方から何かまた別の匂いも混じっている気がした。


その匂いは随分と馴染み深い匂いだった。



────この匂い、コンポタだ。違いない、俺の大好物のコンポタージュの匂いだ。



改めて考えよう。

俺は手から何を出したんだ。


化け物は冑は、押し倒した化け物のすぐ横に転がって置いてあった。

そして、その冑には黄色の液体と粒々の個体…コンポタージュがかかっていたのだ。


コーン入りなんて、素晴らしいじゃないか。

おまけに俺の右手にはぬるいコンポタがべっとりと手汗交じりに付着していた。


…悪いが、意味がわからない。


俺は手からコーンポタージュを出したわけじゃないよな?

まさか、異世界に来て『手からコンポタを出せる』なんていう馬鹿げた能力じゃないよな?


なぁ、嘘だろ?

確認すべきだな。本当に俺の能力は”それ”なのかを。


俺は急いで身体を立て直し、化け物の上に跨った。

そしてもう一度手のひらをヤツの顔に向けてあの時の感覚を思い出した。



「くらえぇぇぇぇえ!」



「ちょっと待って!!」



どこからか、透き通るような女の声がした。

いや、どこからかなんてものじゃない。


俺が理解したくなかっただけだ。


まさか手を向けている先の、化け物から聞こえただなんて。

そして視線をヤツに移した先に俺は思わず愕然とし、目を見開いた。



「お…」



指の間から見えるヤツの素顔。

いや…



「おんなぁぁぁぁあ!?」




”ヤツ”ではなく、彼女だったのだから。

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