第4話 ままん<異→現>

『きゃるーん! きゃるーん!』


 薄暗がりの中、ぴゅんぴゅん飛んでいる。


『はいはいより、ぶつからなくていいです』

<ナニガアルカ・ワカリマセン>


 ハルミ=ムクは、耳のアンテナを立て、正確にむくの位置を把握した。


『ぶつからないから、あぶなくないです』


 ひゅーいっと高い方へ上がった。


<サア・オジョウサマ・オイデナサイ>

 

 ハルミ=ムクも駆け上がるように追った。


 バタバタバタバタ……。


『はるみままんと、おいかけっこは、たのしいです』

 

 むくはにこにこと振り返った。

 ハルミ=ムクは、びくっと速度を落とした。


<ワタシヲ・ハルミママント・ヨンデクダサルノデスカ>

『いつもおいかける、はるみ=むくは、ままんです』

<♪ ワタシハ・メイド・アンドロイドデス>


 ポロロ……。


 ハルミ=ムクは歌にのせて体を揺らす。


『はるみままん、だいすきです』


 むくは、ひゅーんと、ハルミ=ムクの回りで輪を描いた。

 ハルミ=ムクは、うろたえながら、むくを目で追う。


<♪ ワタシハ・オキャクサマノ・オヤクニタチタイ>


 ポロロ……。


 ハルミ=ムクは、再び、歌う。

 そして、瞳がピンクになっていた。


 ヅーッ。

 ヅーッ。


 そのまま、追いかけるのを止めてしまった。

 そして、玲の所へ向かう。


 バシューン……。

 ズッシャーッ……。


<レイサマ・オジョウサマヲ・ミウシナイマシタ>


 玲の目の前に来た。

 先程よりは薄暗がりがマシになっている。


「えええ! むくちゃんに何かあったの?」

<オジョウサマガ・ワタシヲ・ハルミママント・ヨンデクダサイマシタ>


 ハルミ=ムクは、肩をカタカタとさせた。


<アト・ジュウニミリノトコロデ・ワカレマシタ>


 ヅーッ。

 ヅーッ。


「わー、泣くな。泣くな」

「うん……。大体、話は分かった。絡んだ毛糸のようだな」


 ハルミ=ムクはこくこくと頷く。


「俺の役にも立ちたい。むくちゃんの役にも立ちたい。そうだな」


 ヅーッ。


「わわっ。そう泣くな。今度は、俺も行く。ここでじっとしていたら、氷が水のようになってな。もう少しで立てそうなんだ」


 よっこらせっと何度かがんばって、やっと立ち上がった。


「歩くのは分からないが。この黒い魔法陣が意味不明なんだよな。俺への罠か?」


 玲はあたりを見まわす。


「所々、草のない所があるのだが、どうなっているか分かるか? ハルミ=ムク」

<マホウジンガ・テンザイシテイマス>


「いやー。それは困ったな。氷の草むらを行くか」


 パリーンパリーン……。

 パリパリーン……。


「ちょっと痛いけど歩けるじゃないか」

<ワタシモ・オトモ・イタシマス>


 パリーンパリーン……。


 氷の草むらをひたすら歩んだ。

 暫く行くと、向こうから、得たいの知れぬ暑さを感じた。


「ハルミ=ムク、この暑さをサーチしてくれ」

<カシコマリマシタ>


 ピピピピピピピピピピ。


<マウエヲ・ゴランクダサイ>


 はっと、玲が見上げると、大きな赤く燃ゆる星が炎の手を伸ばしていた。

 そして、玲とハルミ=ムクを飲み込もうとしていた。


「走れ!」

<ハイ>


 タタタタタ……!

 タタタタタ……!


 方向なんて分からない。

 炎の手から逃れるべく逃げ回った。


『れいぱーぱ!』


 ほよほよと、炎の中を飛んできた。


「いやあ! むくちゃん無事だったか……」


 そこに、急に目に入ったのは、仁王立ちの妻であった。 


「おや? なぜか美舞がいるな。無事に生き残っていたか」

「いて悪いかしら? で、どうして、むくちゃんが空を舞っているの?」


 美舞は、ふくれっ面をして、一気に吐き出した。


「あなたのせいよ」


 ドン!


 滅多に声を荒げない玲が黒い魔法陣を叩いて立ち上がった。


「俺は、何も悪い事していない……!」


「うわああああ……。又かあ?」


 玲は、自分の運転する車でも酔うタイプなのだ。

 すると、玲達の頭がぐるんぐるんとマーブルになった。

 皆、大きな地震に襲われたと思う程、立ちあ上がれなくなり、這いつくばる。


 グアララララララ……。

 ドドーン……。


「……ここはどこだ?」


 眩しい光の中、第一声は、玲だった。

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