第5話 バトル離乳食<現→異>
「美舞まーまの離乳食がそろそろできますよー」
キッチンから居間に声が届けられた。
ごっきげんの美舞がちょっと怖い玲であった。
玲は、新聞をたたみ、顔を恐る恐る隠した。
<オクサマノ・リニュウショクヲ・メシアガリマショウ>
ハルミ=ムクが、玲の近くにいたむくをかがんで抱っこしようとする。
「ば、ぶぶぶー」
てててててて。
「ばぶぶぶぶー」
てててててて。
<ゴキゲンガ・ヨロシイデスネ>
ハルミ=ムクは、ハイハイに励むむくに微笑ましいと目を光らせた。
ピッピッ。
「ばぶ!」
何かに気付いた様だ。
今は、テレビの真正面のまるテーブルの側。
近くのソファーや三段ラックをちらちらと見る。
「ぶぶぶ」
むくが逃げる。
テレビの裏へ入ろうとして下の二段ラックを避けた。
てけてけてけ……。
「ぶぶぶ」
むくが逃げる。
まるテーブルの下に入ろうとして、座布団にスベった。
てけてけてけ……。
「ぶぶぶ……。ぶぶ?」
むくが振り返る。
キッチンから、トレーを持っているにこやかな美舞が見えた。
むわーん。
言いようのない離乳食の存在感を感じる。
「はい、むくちゃん、美味しい離乳食の時間ですよー」
美舞は、まるテーブルに離乳食を置いた。
「お昼のメニューは。……ジャジャーン! バナナパンと高野豆腐と玉子のハンバーグにミニワンタン野菜スープですよー」
<ミマイサマノ・テヅクリデスヨ>
ハルミ=ムクは、子供椅子を用意した。
テーブルには、スプーンにエプロン。
これぞ、完璧。
用意ができていないのは、むくだけだった。
心の準備だ。
むわわーん。
「ばあ! ぶう! ぶう!」
ハイハイで後ずさり、首を振って激しくイヤイヤをした。
赤ちゃんの悲哀が伝わってくる。
後ろにいたハルミ=ムクに、ひょいと捕まってしまった。
「あぶ、あぶ、あぶあぶ!」
椅子に座らされたむくが逃れようと暴れまくる。
「あぶあぶあぶあぶ」
どうしたらこの危機から逃げられるか分からない。
最後の手段だ……。
「あぶー!」
むくは後ろでマジックテープで留めてあるエプロンを引きちぎった。
ガターン……!
作りたての離乳食が舞い上がり、散った。
テーブルもソファもカーペットもそこらじゅうべしゃべしゃで、むくも顔から手からべちゃべちゃである。
「……。何をしたの? むくちゃん、ハルミ=ムク。そんなに、私の離乳食が憎い?」
わなわなと震える美舞に、新聞で顔を隠していた玲も口を挟もうとした。
「私の離乳食を食べてくれないのは、ハルミ=ムクのせいよ。ハルミ=ムクが料理上手だから……! 私のごはんなんて、猫も食べないわ」
美舞がさめざめとする。
ドン!
滅多に声を荒げない玲がテーブルを叩いて立ち上がった。
「俺は、何も悪いことしていない……!」
すると、玲達の頭がぐるんぐるんとマーブルになった。
皆、大きな地震に襲われたと思う程、立ちあ上がれなくなり、這いつくばる。
グアララララララ……。
ドドーン……。
「……ここはどこだ?」
光の中、第一声は、玲だった。
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