第3話 氷の星<異>

「うう……。星の囁きβか……」


 そして、玲が強く言ってしまってから時も流れた。


「ここはどこだ? 薄暗いが、うちではないな」


 倒れていた玲が、目を凝らす。


「うおっ」


 両手をついて起き上がろうとした時だった。

 手足が地面に張り付いて離れられない。


「なんだこれは? 地面に黒い魔法陣のようなものが……。怖いんですけど」


 ぶるっと震えた。


「ひゃー! 手足が冷たいのは、氷のせいか。何もかも凍っている。……向日葵さえも。背の低い植物が、ちらちら、結晶をまとっている位は見えるな」


 カサリと葉のすれる音がした。


「誰だ」

<ハルミ=ムクデス>


 カサリカサリと玲のいる魔法陣に近寄った。


<レイサマ・ソチラハ・キケンデス>

「おお、ハルミ=ムクか! 確かに危険だ。美舞とむくちゃんはどこだ?」

<オサガシイタシマス>


 ピピーッ。

 ピピピーッ。 


 ハルミ=ムクの手が光り、辺りを照らした。

 しかし、直ぐには美舞もむくも見当たらない。


「この世界へ皆ばらばらに飛ばされてしまったのか……?」


 玲が、アゴヒゲに手をやり考え出した。


『れいぱーぱ! むくちゃんです』


 突然、聞いた声がした。

 甘くて可愛い。


「はあ?」


 玲は、間抜けな驚きを隠せない。


<オジョウサマ? バブウハ・ドウサレマシタ?>

「ハルミ=ムク、突っ込みが早いな。むくちゃん、確かに、ばぶうはどうしたの?」


 玲は、ちらちらと辺りを探す。


『むくちゃんは、おしゃべりがじょうずになりました。ばぶうは、そつぎょうです』


 楽しそうな声がこだまする。


「超能力か? 玲ぱーぱの話が聞こえるか?」


 玲は、この世界がちんぷんかんぷんだ。

 しかし、美舞も自分も不思議な力を持っていたので、むくにも能力発現はあり得ると思う。


『きこえます。れいぱーぱとおはなしをしたいです』


 玲は、うるっとした。


「可愛いこと言うでないの……。玲ぱーぱは、ここへ来て良かったよ。でも、むくちゃんを抱っこできなくなるのは寂しい。おいで、おいで」

<レイサマ・オジョウサマヲ・オツレシマス>

「頼む。俺は、魔法陣の辺りにいて、動けないんだ」

<オジョウサマ・タカイトコロカラ・コエガ・キコエマス>


 ハルミ=ムクは、空を仰いだ。


『むくちゃんは、おそらにいます。つかまらないです』


<オジョウサマ・オコエノ・ホウニ・ムカイマス>

「おお! ハルミ=ムクは、氷にくっつかないのか」

<ソウデス>


 ポロロ……。


<♪ ワタシハ・カラダガジョウブデス>


 ハルミ=ムクは、歌で答える。


『きゃるーん! きゃるーん!』


 むくは、自由自在が心地よく、新しい言葉を作ってしまった。


「きゃるーんって、意味不明だぞー。むくちゃん。ははは」


 ひゅーい。

 ひゅーい。


 風を切る音がする。


<オジョウサマ・ズイブン・トビマワリマス>

「飛んでいるのか? 困ったなあ。おてんば娘ちゃん」

<ワタシモ・トビマス>


 可愛いメイド靴がピンクに光る。


<ブースト>


 ズッ。

 ズッシャーッ……。


『たのしいです。きゃるーん!』


 ピピピー。


 手の光を、四方に渡らせた。


<オジョウサマ・ワタシノ・サーチライトニ・ハイリマシタ>

「おーい! むくちゃんを頼むぞー」

<♪ ワタシハ・オキャクサマノ・オヤクニタチタイ>


 ポロロン……。


 ハルミ=ムクは、又、歌う。


『たのしいです。だれにもつかまりたくないです』


 ひゅいいーん。

 ひゅいーん。


<オジョウサマ・シタハ・コオリデスカラ・オリナイデクダサイ>

『いつも、だっこは、つまらないです』

<コノセカイデハ・ワタシト・イッショニイマショウ>


 バシューン……。


 ハルミ=ムクは、腕を伸ばすも、むくちゃんに後十二ミリの所で逃がしてしまった。


『とっとっとと。つかまらないですよ』


 むくちゃんは、左へ旋回した。


 これが、有名な十二ミリ事件となる。

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