まこちゃんは手汗をどう思ってる?
気分転換に一人で映画でも見に行こう。大きなスクリーンに映し出されたヒーロー。超高層ビルの窓ガラスに手足をへばり付け、上へ上へと登っていく。俺だったら手汗ですべって落ちてるな……。崖の上で悪の化身と戦うヒーロー。指先から糸を出して敵をグルグル巻きに仕留めた。俺だったら指先から手汗を出し、敵を濡らすことしか出来ない……。さらわれた姫が崖から落ちた! と思いきや危機一髪で姫の腕をつかんだヒーロー。俺なら手汗で滑って姫落ちとる……。ヒーローと姫の熱烈なキス。ヒーローは姫のほほを手の平でガッチリ抑えつけてる。俺があんなことしたら姫のほほが手汗でびちゃびちゃになってしまう……って全く気分転換にならない! どうしても手汗目線で見てしまう自分が悲しい。
まこちゃんとデートを重ねているが、ひとつはっきりさせたい事がある。それは「尋常じゃない手汗」をどう思っているか。手をつながれるたびに「気持ち悪がられたらどうしよう」という思いでプチパニックになってしまうからだ。だいぶ打ち解けて来たし、そろそろ聞いてもいいだろう。思い切ってたずねると、まこちゃんはこう答えた。
「面白い」
衝撃。びちょびちょの手汗が面白いだなんて。斬新すぎる答えに言葉が出てこない。
「だって緊張するとドンドン出てくるから。新一君の気持ちが分かって面白い」
そういうとまこちゃんは僕の手をむにむにしてきた。
「あはは。ほらまた汗が出てきた」
「そりゃそうだよ。だって手汗の話をしてるんだもの」
「そういう所が面白いんだよ」
「手の汗、気持ち悪いと思わないの?」
「思わないよ。面白い」
「ずっと汗かいてるから大変なんだよ。スマホは反応しないし、ポテチの袋は開かないし」
「ぬれせんべい! ぬれせんべい!」
そう言ってまこちゃんは手をたたいておどけている。まこちゃんとならやっていける。手汗を受け入れてくれている。嬉しさが込み上げてきた。
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