手汗がバレる! まこちゃんとの初デート
ついに明日は香月さん、もとい、まこちゃんとの初デート。どうすれば手汗を乗り切れるか。塩アルを塗って少しでも手汗を押さえるべきか。でも一度ダムが決壊したら、一気に汗が出て余計に引かれる。手をつないだら、どうしたってバレる。それならいっそ、手をつなぐのをやめるか。いや無理だ、もう30歳のオッサンだぞ。デートで手も繋がないって、それこそ一発でフラれる。
「手をつないだら地獄、断っても地獄」
同じ地獄行きなら、先に手汗をカミングアウトしようか。香月さんなら分かってくれるんじゃないか? いやいやいや、いきなりそんなこと言われたらふつう引くだろ。あーどうしたらいいんだ!
結局ほとんど寝られないまま、デート当日のクリスマスをむかえてしまった。もしデートで手をつなぐことになったら、「ちょっと手に汗かいちゃうんだよね。えへへ」と笑ってごまかそう。重くならずにさらっといこう。
クリスマスソングが流れる中、待ち合わせ場所へ向かう。まこちゃんが待っている。ピンクのコートと白いもこっとしたマフラーが絶妙にかわいい。あれが俺の彼女なのか。ドキドキが止まらない。まずはランチでもんじゃを食べる。彼女は上手にキャベツで土手をつくり、もんじゃをきれいに仕上げていく。かわいくて料理もうまいなんて、まさに理想の女性!
夕方になり陽は落ちて、どんどん暗くなってきた。せっかく近くに来たからと、東京タワーを見に行くことに。
「わあ、きれい~」
オレンジの光にライトアップされた東京タワー。中に入ってエレベーターに乗る。展望台が近づくにつれ、彼女のテンションも上がっている。
「カップルしかいない!」
展望台では東京の夜景が360度広がり、大都会のビルの明かりが輝いている。思わずうっとりしていると、右を見ても左を見ても若い男女がいちゃついている。これは……。くるぞ、きっとくる。手をつなぐ瞬間が! 手にじとっと汗がにじんだその時、まこちゃんがぎゅっと手をつないできた。
「ああっ!」
頭がまっ白。彼女の手の平のやわらかさを感じ、手汗がドバドバ出てくる。やばいやばい。決壊したダムみたいに汗が出てくる。想定していた「ちょっと手に汗かいちゃうんだよね。えへへ」が口から出てこない。顔はひきつり、会話ができているのか分からない。自分がどこを歩いているかも分からない。手を離そう。展望台はムードが良すぎて危険だから、下に降りよう。ボーっとした頭でとにかくエレベータの前に行き、彼女がつないでいる手をパッとはなした。彼女の手の平には、汗がびっしょり付いている。
「ご、ごめん。手に汗かいちゃって」
申し訳なさで思わず言葉が出た。彼女は目を丸くして驚いている。
「俺さ、手に汗かいちゃうから、腕を組んだ方がいいかも」
とっさに提案して、急いでハンカチで手汗をふく。
「大丈夫だよ」
そう言って彼女は手をつなぎなおした。
バクバク、バクバク。なにこの展開? 心臓のバクバクが止まらない。大丈夫? この手汗が大丈夫だって? ウソだ。こんなにびちょびちょなのに大丈夫なわけがない。でもまこちゃんは楽しそうに笑ってる。
何度も手をびちょびちょに濡らしながら、初めてのデートは終わった。手汗は隠すどころかバレバレだった。まこちゃんは大丈夫だと言っていたけれど、本当だろうか? 本音を知りたいけど、聞くのも怖い。メールで聞こうかと思ったけど、重いと思われたら嫌だからやめておいた。
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