香月さんへの想い

 すぐに香月さんにメールしたかったが、何て送ればいいのか分からない。だがこうしているうちにも恋のライバルが香月さんにメールしてしまうかもしれない。こういうのは先手必勝だろう。迷った挙句、今日は楽しかったですね! という当たり障りないメールを送った。すぐに「楽しかったですね」という返事がきた。第一関門はクリア。でもここからどう続けよう……。そうだ、ドラッグストアで働いてるって言ってたから、そのことを軽く聞いてみよう。

「今日ドラッグストアで柔軟剤を買いました。今はいっぱい種類があって迷っちゃいました」

「柔軟剤いいですよね。私、いい香りが好きなんです。朝田さんは何の柔軟剤買ったんですか?」

「ダウニーです」

「ダウニーいい香りですよね~。私も好きです! 何でダウニーにしたんですか?」

「小栗旬が使っていると聞いたもので(笑)」

「あはは、そうなんですね」

 ダウニーのおかげで香月さんとのメールが続いている。ありがとうダウニー。もうダウニーに足を向けて寝られない。


 メールを重ねる度、香月さんへの想いが膨らんでいく。でも、彼女は僕の手汗のことを知らない。ばれたらきっと嫌われる。男の手汗なんて、百害あって一利なし。手汗のことを知らない人と付き合うというのは、ハードルがものすごく高い。はあ。


 もう30歳だというのに、持っていないものがある。それは車の免許。理由は2つあって、ひとつは車酔いが激しいから。小学生の遠足でバスにのり、日光のいろは坂で持っていたジャンプに吐いたのは今でも忘れられない。悟空ごめん。もうひとつは教習所でハンドルを握ると、教官に手汗がバレるから。知らない人に手汗を見られるのは死に値する。でも、いい大人として取らないとね、というか香月さんに免許持ってない人と思われたくない。嫌だけどがんばってみるか。大金をはたいて教習所の門を叩く。

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