手汗で一年で退職

 その日の仕事終わり、店長に事務所に呼ばれた。

「聞いたよ朝田くん、台トラブルがあったって」

「はい。すみません解決できなくて」

 店長は椅子に深く腰かけて言った。

「君はこの仕事に向いてないかもしれないなあ。まだ若いんだし考え直した方がいいかも」

 グサッときた。何も言い返すことができない。正直僕もそう思っているからだ。客としてパチンコを楽しむのは好きだが、パチンコ屋で働くのは苦痛でしかない。当たり前のことに気づくのが遅すぎた。もう限界だ、辞めよう。店の外に出ると、グレーな雲に覆われて空が見えない。


 店長に辞めたいと伝えると、君には向いてないと思っていたとまた言われた。全く止められることもなかった。パチンコが好きだからという理由で適当にした就職活動のツケが回ってきた。何もかも甘かった。でも今頃公開しても遅い。人生は巻き戻せない。自分の甘ちゃんぶりが情けない。


 はるちゃんとのデートは手汗を気にしないで済むのでいいが、女心が分からず怒られることも増えてきた。たとえば彼女は季節に合ったおしゃれをしているのに、僕はいつも同じ服を着ている。すると「私の服に合わせてよね!」と怒られる。他にもレストランでパスタを食べていると「パスタ、音立ててすすらないでよ! 恥ずかしい」と。女性と付き合うのは簡単ではない。


 パチンコ屋での苦い経験で、手汗が仕事にも影響すると身に染みた。次は手汗の影響が少ない仕事にしよう。一人でできる事務の仕事なら、手汗を気にしなくて済むんじゃないか。そう思って好きなWeb系の事務の仕事を始めた。

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