手汗(手掌多汗症)オフ会 深夜のディープな話
だが「手汗で困ったことって何?」というテーマになり、風向きが変わってきた。
握手ができない、おつりの受け取りが嫌、フォークダンスは絶対無理という話しが出て、「すっごく分かる!」と全員が共感している。目の前にいる人達と手汗の悩みを共有できるなんて夢のようで、心底嬉しい。
「私はこの病気が理解されてないことが悔しい」
そう言ったのはしっかり者のサトちゃんだ。
「大学の友達に勇気を出して手汗のことを打ち明けたの。そしたらその子が、そんなの気持ちの問題だよって言ったの。違うよ、病気なんだよって。でもその子、気にしすぎじゃない? って。分かってもらえなくてほんとショック」
友達は悪気なく言ったのかもしれないが、間違ってる。手汗のことを「気持ちの問題」って言われるとほんと頭にくる。それじゃ気持ちが弱い自分のせいってことじゃないか。そうじゃない、汗は勝手に出てくるんだよ。気持ちで止められるものじゃない。
お酒が入り時間も深まるにつれ、ディープな話も出てきた。えりさんは手足がスラッとした色白の美人だが、手汗が気になり、つねに手袋をしているという。仕事場でもプライベートでも、ずっと手袋。たしかに今日も白い手袋をしている。まるでエレベーターガールのよう。僕でも普段は手袋はしていないので、相当悩んでいるのだろう。
「うっ、うっ、ううっ」
ハンカチを目に当て、涙を流している女性がいる。周りの人から話を聞く。その女性は手汗に悩みFTS手術を受けたが代償性発汗がひどく、1日に何枚もシャツを変えなくてはいけないし、体の汗が服ににじむので外に出るのも嫌だという。
「これからどう生きて行けばいいのか、分からなくて」
女性は泣きくずれてしまった。
ETS手術に関しては、手術をして満足している人、後悔している人の両方がいた。手汗が止まるのは魅力的だが、やはり代償性発汗のリスクが大きく、今は手術をしたいとは思えない。
「彼女? いないよ。今まで誰とも付き合ったこともないし。キス? もちろんない」
そう言う男性の顔を見て驚いた。モデル顔負けのイケメンで、超小顔。まるでファッション雑誌から抜け出したみたい。嘘でしょう? と女性陣から一斉に突っ込まれている。手汗で恋愛に臆病になり、積極的に女性にアタックできないという。イケメンなのにもったいない! と言われていたが、痛いほど気持ちが分かる。手をつなげない、ボディタッチできないのだから、恋愛の大きなハンデになる。手汗を好きな女性なんて、いる訳がない。若い女性も手汗が気になって彼氏ができないと悩んでいる人が多い。やはり手汗は恋愛の大きな障害なのだ。
その後も居酒屋、カラオケとはしごして、朝まで話し込んでオフ会は終わった。帰宅しても体は疲れているはずなのに頭が興奮して寝付けない。オフ会に参加してみて分かったのは、やはりみんな汗のことで深く悩んでいる。表面上は明るく見えても、その内側、心の中は暗い雲で覆われている。心の中では泣いている。そしてそんなつらい状況でも、オフ会に参加して悩みを共有し、なんとか前向きに生きていこうとしているのだ。
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