大学生編

手汗とインターネットとの出会い

「リーチ」

 パチンコ台のくるくる回る数字をボーっとながめる。俺は大学の授業をさぼって何をしてるんだろう? 一人暮らしを始めたのをいいことに、バイトもやめたし、授業もろくに出ていない。

 朝から晩までパチンコ台と無言で向き合う日々。パチンコはいい、人とかかわらないで済む。リーチがスーパーリーチに発展した。このリーチは99%当たりだ。ハンドルを握る手から汗が噴き出す。店員にドル箱を追加してもらうため、呼び出しランプを押す。

「お客様、いかがされましたか?」

「箱ください……えっ!?」

 ウソだろ? 99%当たるリーチが外れてる。苦笑いをうかべて店員は去っていった。むなしく回りだす数字を見て、ため息が出る。ハンドルは汗でべたべた。俺の人生、これからどうなるんだろう? 友達もいない、彼女もいない。ハタチすぎて童貞。それも全部、この忌まわしき手汗のせいだ。手汗がバレるのを恐れて、どんどん消極的な性格になっている。あんなに仲が良かった矢野さんにも連絡せず、疎遠になってしまった。大学にも友達は一人もいない。財布を空にしてパチンコ屋を出ると、外は真っ暗になっていた。細っそい月だけが夜空に光っている。色んなものが大きく欠けた俺みたいだ。


 誰もいないすえ臭いアパートの畳にごろんと寝転がる。暇だ。テレビを付けるとCMでおしゃれなパソコンがくるくる回ってる。そうだ、パソコンを買おう。それでインターネットをやるんだ。CMでくるくる回ってた、iMacを買おう。

 電気屋でパソコンフロアを見て回る。あった! iMacだ。ブルーのスケルトンでオシャレ。マウスにさわってみようと思ったが、手汗がひどくてさわれない。マウスに汗が残ってしまう。トイレにかけこみ手を洗い、扇風機のコーナーで手をかわかす。やっとのことでマウスをクリックし、インターネットにつないだ。おお、面白い。買おう。


「元気? 大丈夫?」

 母親からの電話。一人暮らしを始めた僕を心配してくれているのだろう。毎日パチンコ屋に通っているとは言えず、大丈夫だよとお茶を濁した。学費を払ってもらってるのに申し訳ない。なんとか大学は卒業しないと。電話を切ると、手汗で電話がびちゃびちゃになっていた。


 ピンポーン。ついに大きな箱に入ったiMacがやってきた。四苦八苦しながら、なんとかインターネットにつなげる。おお、これがヤフーか。何を検索しよう? 慣れないキーボードで打ち込んだ。「エロ画像」。ポチっ。

(一時間後)

 ふう~。すごい時代になったもんだ。もうエロ本いらないじゃん! でも画像が出てくるのが遅すぎるぞ。NTTよ、そこの所なんとかしておくれ。

 マウスを見ると、手汗で光っている。キーボードも濡れてる。っていうか汗が固まって塩になってる。やれやれ……。

 そうか、この手のこともインターネットで調べれば何か分かるかも。検索エンジンに「手汗」と打ち込むと、サイトが出てきた。

「手の平のみずうみ」

 おお、手汗に関係ありそう。サイトにアクセスした。

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