手汗(手掌多汗症)治療1ドライオニック

 そうか、この手のこともインターネットで調べれば何か分かるかも。検索エンジンに「手汗」と打ち込むと、サイトが出てきた。

「手の平のみずうみ」

 おお、手汗に関係ありそう。サイトにアクセスした。


「手の平から大量の汗が出る病気、手掌多汗症の治療について」


 釘づけになった。パソコンの画面には、僕の手汗がハッキリ「病気」だと書かれている。心臓がバクバクしてきた。嬉しかった。今まで苦しめられてきたこの手汗は、れっきとした病気だったのだ。しっかりと病名も付いている。「手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)」という、舌を噛みそうな病名。その症状には、レベルがあるらしい。サイトにはこう書かれている。


 レベル1

 手の平が湿っている程度。見た目にはわかりにくいが、さわると汗ばんでいる。

 レベル2

 手の平に汗の水滴ができる。汗がしたたり落ちはしない

 レベル3

 手の平に水滴ができて、汗がしたたり落ちる。


 手の平を開くと、汗が水滴になり光っている。手相は汗の川になっている。でも汗がしたたり落ちはしない。ということは、僕の手汗レベルは2だ。相当ひどい症状だと思っていたが、さらに上のレベルがいるなんて……。レベル3の方はさぞつらいだろう。レベル2でも人生にかなりダメージを受けているのに。


「手掌多汗症の治療法について」

 ウソだろ? この手汗を治す方法があるの? 神様だって治すのは無理だと思っていた。サイトによれば、治療法は3つ。

「ドライオニック」

「塩化アルミニウム」

「手術」

 の3つだ。全く聞いたことのない横文字に期待が高まる。最後の手術って何だよ。ちょっと怖いけど、興味はある。暗い部屋のカーテンを開けると、光が差し込んできた。手をかざすと汗がキラキラしている。ついにこの手汗が治るかもしれない。


 まずは「ドライオニック」から試してみよう。「ドライオニック」とは、電気の流れる水に手を入れて、手汗を止める機械だそうだ。水に電気を流すことで、汗の出る線を塞ぐらしい。電気が流れる水って何だよ。怪しいけど、やるしかない。しかし困ったことに、ドライオニックは日本には売っていない。よく分からない英語のサイトから買うしかないようだ。英語がさっぱり分からないが、えいや! と購入ボタンらしきものをクリック。値段は2万円くらい。本当に手汗が止まるなら、安い買い物だ。


 ピンポーン。宅配で届いた箱を見てテンションが上がる。待ちに待った「ドライオニック」。急いで箱から機械を出す。って、しょぼいな。機械というより、おもちゃって感じ。こんなもので本当に20年以上苦しめられた手汗が止まるのか? 手を水にひたし、おそるおそるドライオニックの電源を入れる。

 ビリビリビリ!

「痛っ!」

 慌てて手を水から出す。手の平全体に電気がビリっと流れた。何これ怖い。あわてて電気の強さを弱める。ビリビリからピリッくらいの痛みに落ち着いた。サイトの説明を読むと、ドライオニックは毎日30分やらないと効果が続かないらしい。

 効果だけを信じ、30分ひたすら我慢してやってみる。手の平を見ると、確かに汗の量は「気持ち」減っている。だがひとたび手汗が出てしまうと、その後はいつも通りドバドバ汗が出てくる。

 がんばって2週間くらい続けてみた。確かに手汗の量は減ったが、完全に止まることはない。そして毎日続けるのはとてもめんどくさい。はっきり言ってやってられない。申し訳ないが一生続けるなんて無理。そっとドライオニックを押し入れにしまう。高い買い物になってしまった。

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