第19話 手柄
クレアは思わなぬ手柄を立てることになった。
ポル男爵の死体はその場で埋葬。
一部逃走した将兵は居るが、降伏をして捕虜に捉えた数は321名。
クレアの部隊よりも多い数が捕虜となった。
さすがにこの数の捕虜を連れて歩けないので、すぐに迎えの部隊を寄越すように伝令を送る。
クレアは尋問をするためにポル男爵の側近だった男をテントに呼んだ。
初老の彼は名前をダイナスと言った。長らくポル男爵に仕えた臣下であった。
「それでなんで、ポル男爵を殺したわけ?」
「あのお方は平民の命を何とも思わないのです。今まで、散々、その光景を見てきました。ここでも多くの兵の命が奪われるのかと思ったら居ても立ってもおられず」
「それで・・・裏切ったと」
「まぁ・・・そうですな」
「あっさりとしたもんね。臣下として裏切りがバレたら、大変でしょ?」
「私は独り身ですから」
ダイナスは笑いながら言う。
「解ったわ。あなたの待遇に関しては私からも一筆添える。後方の司令部へと送る事になるけど問題は無いわね」
「ありがとうございます」
ダイナスの尋問は短時間で終わった。
クレアは後方に捕虜を送る為の事務作業をする為に自らのテントに戻る。
そこではシエラが居た。
彼女は捕虜の写真を撮影して、記事を書いていたようだ。
「お手柄か・・・」
クレアは大きく書かれた文字を追う。
『ポル男爵に勝利して、多くの捕虜を獲得した』
「そう言ってくれるとありがたいわ」
クレアはシエラの頭を撫でる。
前は貴族の娘だと思って、素気ない態度で接していたが、長い事面倒を見ていると、何だか妹のような感じになっている。
そして、頭を撫でられたシエラも満更でも無いみたいだった。
捕虜を護送する部隊が到着して、馬車に次々と拘束された捕虜たちが乗り込む。
クレアから経緯を聞いているので、それなりに丁重に扱われていた。
特にポル男爵を討ったダイナスは拘束もされず、士官用の馬車での護送だった。
貴族派の勢力と言っても魔法が使える貴族以外は皆、平民。
こうなってしまえば、憎しみ合う必要性は無いのだから、扱いが特別、酷くなる事などあまり無い。
彼らを見送ったクレアは部隊を休養させる為、後方へと移動を命じる。
激戦に次ぐ激戦であった将兵達は久しぶりの休養に楽しみにしていた。
シエラはその間に新聞に載せる記事を完成させるつもりだった。
必死に慣れないタイプライターを打っている。
その様子を傍らで眺めながら、クレアは馬車に揺られていた。
Gun & Magic 三八式物書機 @Mpochi
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