第10話「西国の王 アレク」
私は水滴に濡れそぼったローブに構わず、アレクを抱きしめた。
「アレク、我が友よ」
「アーロン様、お久しぶりでございます。
あの鉄のような体のあなたが、随分とちいさくなってしまいましたね…」
アレクは笑いながらそういって、私を抱き返した。
「ふふ、お前は随分と大きくなった。
初めて会った時はまだ子犬のようであったのに」
「む、そんなことはありません。
わたしは今も昔もずっと大きく気高いオオカミですよ」
「何を申すか、蛇が怖いと私に抱き着いてきたお前をわしはよく覚えているぞ。
…友よ、よく来た」
ガヴリノールがアレクを抱きしめ、アレクもまた抱き返す。
「その様子ではまだもうろくしてはいないようですねガヴリノール様。
あなたに会えるこの日をどれだけ待ち望んだか…」
グロッズがフルフルと震えながらにアレクに近づいていく。
「あれぐう…」
「グロッズ様!」
「あれぐゥ…おおぎぐなったなあ!
おでは…おではうでしいぞ!あれぐう!」
グロッズは涙を流してアレクに抱き着いた。
「グロッズさま…ッ!
お久しぶりでございます…!
…この鼻につくにおいを恋しく思うようになって何年たったことでしょう…!」
アレクもまた目を潤ませ、固くグロッズを抱きしめた。
「よう、アレク!」
「リドルゲン様…ポニーではなく、馬に乗れるようになられましたか?」
「うるせ!
もう愛馬だっているんだぜ?
…今度俺んとこに遊びに来いよな。
見せてやるからよ、俺の乗馬っぷりを…会いたかったぜアレク」
「はい、私もです…!」
リドルゲンとアレクは固い握手を交わす。
「アレク殿ォッ!」
コタロウが二人の握手を引き裂くようにアレクに飛びついた。
「こ、コタロウ殿まで!?
なんですか!もう全員集合みたいなものではないですか!」
「アーモフモフですなぁ!!
拙者の国ではこのもふもふにとって代わるものなど存在しませんでした故、もういかにしてこの欲求不満を満たそうかと…ああアレク殿ォ!」
「ああ…このうざったさも今思えばなんと懐かしい…」
私がどうにかコタロウを引き離すと、スプリスが今度は前に出た。
『あら、わたしは抱き着いたりしないわよ?
お洋服にわんわんの匂いがついちゃいますもの』
「スプリス様!
…姿かたちは変わられても、そのきつい香水の臭いは変わりませんね。
私こそごめんでございます」
『あらそう?
…じゃああなたが嫌がりそうなことをなってやろうかしら。
…アレクッ!大きくなったわねッ!』
スプリスはアレクの胸に飛び込んでいき、アレクはスプリスを受け止める。
「スプリス様…!
風のうわさであなた様が転生されたと聞き、身の張り裂けそうなおもいでしたが…。
相変わらずのお美しさ、安心いたしました…」
『あら、お世辞まで覚えちゃってこのわんわんは…』
「アレク」
今度はシャルラがアレクの前に出る。
「シャルラ様…!」
アレクはスプリスを降ろし、シャルラの前に跪き、首を垂れる。
「面を上げなさい、風に守られし西国の王アレクサンド・ダンタリオ。
強く、そして立派な王になりましたね」
「はっ…シャルラ様にそうおっしゃっていただけるとは、幼き頃の自分では考えもつかなかったこと。
こうして御前に参じることができたのは、ひとえにあなた様の加護のおかげにございます」
…しばしの静寂のあと。
「…あーん!もう!アレク!
相変わらずのモフモフっぷりじゃないもうアレク!」
シャルラはもう我慢できないとばかりにアレクの首の下のふわふわとした毛を揉みしだいた。
「シャルラ様のモフりテクも相変わらずのご様子…ッ!」
アレクはくすぐったそうに身をよじる。
今この瞬間、旅の仲間は一人を除き、全員の集合を果たした。
私はこの懐かしき空気を噛みしめながら、声を出して笑う皆にとともに、心から笑った。
そして私は同時に、こころに一抹のどうしようもない寂しさを覚えていた。
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