第7話「シャルラ」

『シャルラ!

あんたシャルラなの!?

うわあー!もう本当にシャルラじゃない!

戴冠式いらいかしら!』


スプリスは心から嬉しそうにシャルラに近づき、手を取って飛び跳ねた。


「す、スプリス!

あんたその姿…!

またそんな格好して、アーロンはもう年なんだから!

若けりゃいいってもんじゃないわよ?」


『あ、そっか!

あんたもあの時はもう国に帰ってたわね!

まあいいわその話はおいおいで!

さ、座って座って!』


シャルラはスプリスに促されるがままに隣の席についた。


「久しぶりだなシャルラ。

君は相変わらず美しい」


ガヴリノールがシャルラに酒を汲む。


「あら、シルバーダンディさん?

相変わらず女ったらしを発揮してるの?

だめよ、私もう素敵な旦那様がいるんだから。

あと、さっき殴ってごめんなさいね」


「ううむ、信用がない…。

いいさ、君とわしの仲だ」


ガヴリノールは苦笑いを浮かべつつもそんな会話を心底楽しんでいるようだ。


「今日はお勤めはいいのかい?」


私がそう問いかけると、シャルラはにっこりとほほ笑んだ。


「うん、今日は巫女たちに任せてきたわ。

なんせもう開くことがないかもしれない同窓会ですものね」


シャルラの皮肉たっぷりの言葉に皆で笑った。


「シャルラざま…おひざじぶりでごぜえます」


「グロッズ、地下の国の王。

久しぶりに会えてうれしいわ」


「へへ、あっしごぞ!」


『あらやだ、グロッズったらシャルラの名前はしっかり言えるんだから。

いやねえ、うちの男どもはゲンキンで』


スプリスは不満げに音を立てて酒を飲んだ。


「まあまあお嬢、お嬢のすばらしさはあっしがよく知ってますから!」


『そういうあんただってちゃっかり結婚して子持ちのくせにー…』


「あら、リドルゲン?

あんたたちまたスプリスをいじめたの?」


「いやいやめっそうもねえシャルラ様!」


「そやつが勝手にいじけてるだけじゃわい。

全く、未婚の女とは扱いづらいものよな」


『おーっとガウリ‐君?

呪い殺しちゃうぞ?』


「お、お嬢?」


「おう、やれるもんならやってみい」


「が、ガヴリー?」


ガウリノールもようやく王という立場の重責が抜け、彼らしくなってきた。


「まあまあお二人とも落ち着いて!

…いやあ、生きているうちにエルフに、しかもシャルラ女王陛下にお会いできるとは光栄ですなあ!

拙者感激の極みにござる!」


コタロウが興奮交じりに腕を動かして言った。

そう、シャルラはエルフの女王だ。

ハイエルフの中でも最高位の力を持ち、寿命はないに等しく、この世界と大きなつながりを持っている。

金髪碧眼のその姿はまるで、神殿にまつられる旧世界の神族の姫そのものであり、普段は我々のいる世界のは少しずれた世界に住んでいる。

生物というより、神に近い存在なのである。


『ほんと、あんたいつになったらこちら側に来るのよ。

ゼウス様もあんたを迎え入れる気満々で手ぐすね引いてるって話だけど?』


「あら、私はこの世界と婚約を結んだのよ?

いまさらゼウス様になんて嫁ぐ気はありませーん」


『ゼウス様が聞いたら世界を滅ぼしそうだからだまっとくわ』


こうしていると、彼女が別世界の人間だということを忘れそうになる。

なんと人間味にあふれた半神様だろう。


「やっぱりみんなと飲むお酒はおいしいわ…。

そういえばコタロウもごめんね?

脳出てない?」


「拙者はもうすでに脳の半分は活動停止状態ですので心配ご無用にござる!

むしろシャルラ様の御手に触れていただいて感謝の極み!」


「あら、もう2,3発殴ってもいいってこと?」


「あらー、さすがの拙者もそれは本当に活動停止してしまいそう…」


こうしてみんなと笑いながら酒を飲むのは、何物にも代えがたい幸せだと改めて思う。

少しふわふわとした酔いを感じながら、私は皆を見回した。


「うん?

どうしたデルケ」


「い、いや父さん…。

国王陛下に海賊にドワーフにニンジャに神族にエルフの女王様に…もうなんか頭の回転がおっついてない…」


「ふふ、気持ちは分かるが、肩書なんぞ気にせん奴らだ。

遠慮せず、話してみるがよい。

いずれ国王となるお前には良い経験となるだろう」


するとシャルラはいつの間にか私のそばにいて、デルケの肩に手を置いていた。


「勇者アーロンの子、デルケね。

はじめまして…ではないわね、小さいころにあってるから」


「…俺の小さい頃って一体…?

こ、ここは初めましてといわせていただきたいです、シャルラ様。

これは私の妻のロレンでございます」


「ロレンです。

エルフの女王陛下にお会いできるだなんて、こんなに光栄なことはありませんわ」


「あら、かわいい奥さんね。

アーロンが新婚だったころを思い出すわ」


シャルラは頬に手を当てて、ほうと息を吐いた。


「本当、人間は何もかもが駆け足だわ。

ちょっと目を離していたらアーロンはおじいちゃんになってるし、小さいデルケは奥さんをむかえてるし…ってあら?

息子さんもいたはずよね?

今はどちらに?」


「ブァッジとあぞんでいるはずでずが…」


「ブァッジ?」


「ああ、グロッズの娘でな、名をファッジという。

確か今は二階にいるはずだ、案内しよう」


私がそういうと、シャルラは嬉しそうに手をあわせて微笑んだ。


「あら!

グロッズのお子さん?

あらあら、それはぜひとも会いたいわ!」



私は椅子から立ち上がり、二階への階段へとむかう。

手すりをつかみ、階段を昇っていくと、シャルラが階段のふちから下の卓を覗いていた。


「シャルラ?」


「本当、あなたたちは駆け足ね。

ガヴリノールはお髭まで真っ白になってるし、グロッズももじゃもじゃのお髭に白い毛が目立つようになった。

リドルゲンももうすっかりおじいちゃんだし、コタロウもどこか弱弱しくなっている。

…スプリスも、内心はきっととても落ち込んでいるでしょう」


「シャルラ…」


「仕方がないとはいえ、私はとてもさみしい。

とてもさみしいわ…アーロン」

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