第3話防災訓練のぎょうじ

 小窓から藤宮さんが無事通ったのを確認し、手を引きひとまず階段から下の階へと移動しようと向かったが、なにか人混みが出来ていて通れなくなっている。


 「先生早く通してくれっ!逃げないとアイツに食われちまう!」


 「そうよ!何で通してくれないのよ!」


 どうやらこの騒ぎを聞きつけて先生が集まっているようだ。


 「いや、たしか担任の先生からの指導を受けてるんだろう、食われるったって、さっき来た奴らがゲームでもしてて遊んでるって言っとったぞ?ほらほら戻った戻った」


 先に逃げ出した人らがきっと適当なこと吹き込んでいたのか、まったく聞く耳を持ってもらえないようだ。まあ、日頃の行いが悪いせいでもあるんだろう。


 「えっと、取り敢えず別のところから行きません?ここを通って行くのは時間がかかりそうなので」


 「そうだね、じゃあ渡り廊下通るか。」


 正直ここの階段を降りて目の前の昇降口から出ようと思ったのだが、仕方ない。


 「それにもう一つの階段からだとまた教室の前通るし、怖いかな」


 そうと決めたらまた改めて手を握り返し、渡り廊下へと差し掛かろうとした所だった。



 ジリリリリリリリリリリリリリリリッ!


 急に防災ベルの音が鳴り響いた。他のクラスの人らも何事だと廊下に出てきてる人もいる。


 「なんだ、火事か?」「うるさいなぁ」「取り敢えずクラス戻れ!授業中だろ!」


 先生が怒鳴り声を後ろで張り上げているが私は関係なく進みきり特別棟へと行ったところで、藤宮さんに思っていたことを伝えた。


 「取り敢えずなんかこのまま昇降口に行くのはなんか嫌だ、ちょっと部室に行かさせてくれないか?」


 「うーん、別にいいですよ、きっと昇降口にも先生いると思いますし」


 取り敢えず自分の部室の4階へと足を運んだ。


   

    ♦ ♦ ♦ ♦ ♦



 さっきから隣のクラスが騒がしい。まぁ、この学校では日常茶飯事なので特に気には止めなかった。


 「ねぇねぇ、隣うるさくなぁーい?マジウケるんすけどォww」

 「あ、それうちも思った、何やってるんだろーねー、ヤってるんかなwww」「「「「キャハハハハww」」」」


 あくまで今は授業中である、自習とかそういうのでも無く、今も先生は教科書に書かれていることを自分の語彙力で説明しようとしている。

 しかし、この学校の普通がこれなのだ。休み時間は当然のこと、授業中もなんの変わりもなくただ話をしたり、寝ていたり、授業を真面目に受けているのは少ししかいない。

 こんな学校来たくは無かったが、高校受験で前期に落ち、後期は安全牌しか切らせてくれなかった中学の時の担任のせいで底辺高校にいる。


 「つーかエミヤの彼氏マジウケるwクッソぶっさ面なんだけどぉ」「えーあいつ彼氏作れたの!?あのツラで!?」「やっへマジうけたww」


 うるさい、うるさい、お前らの面よりその下劣で低俗な、性悪オンパレードな会話引っ込めてくれ、そして私の妨害をしないでくれ。

 半ば苛立ちを隠せずにシャーペンの芯を折ってしまったが、気にせずに話し続けている。先生も諦めて知らんぷりだ、老年の先生だけに話している言葉も聞き取れない。

 勉強も出来ず誰にも怒られないのにスマホも弄る勇気さえない、何にもなれないただの閲覧者。

 そう言えばもうすぐ小説の〆切日だったなと思い出し、バックからペンと原稿用紙を出した。データ入力での応募が決まりだったが、見直しも兼ねて一度手で書きそこからパソコンで入力をしている。


 「彼はなぜ死ななければ行けなかったのか、嗚呼、私の中では彼は一番の星だったのに、チクショウ。もう何も信じれない、誰もお前を愛さない」


 前々から一度声に出しながらでないと、言葉のニュアンスなどに何となく違和感を感じるので小声で口に出しながら書くのが癖になってる。たまに考えていることまで口に出してしまうが。




 ジリリリリリリリリリリリリリリリッ!




 突然のベルの音に持っていたペンが紙に穴を開けてしまった。ちくしょう書き直しだ、こんなことしたヤツとっちめてやる。

 いくつかの拷問方法を頭に描いたが、そんなことは置いておき、廊下を見てみる。数人は見るために既に出ているが、また誰かが退屈しのぎにでも押したのだろう。くだらない事が好きだなぁ。


 「はぁーい静かに。ちょっと確かめに行ってくるかは動くは。」


 掠れて聞き取りにくかったが、なんとなく言ってるのは解った。まあ、言うこと聞かないが。


 しばらくすると、先生が戻ってこないことに業を煮やして廊下に出始める輩がいた。


 「ん、なんだあれ?赤い?」


 廊下に出た坊主頭がそんなことを言っている。語彙力少ないなぁと思いつつ自分も暇なのと、やはり気になり廊下に出てみた。

 あまり目のいい方ではないのでぼやけて見えるが、何となくたしかに赤い、しかし、その赤いのは数人の人型で、燃えているわけではないようだ。

 まぁ、気分早いやつが文化祭ようにお化け屋敷の準備でもしてるのだろうと思わせ、戻ろうとした時に最初に見たやつの顔が青ざめていた。




 「っヤバい、ヤバいヤバイヤバイ。逃げなくちゃ、ヤバい」




 なんだこいつと思いもう一度ボヤッとしているのを目を細めてしっかり見てみた。そうしたら、なんと表現すればいいのか、わからないが、


 

 頭に黒とピンクの混ざった色の花が咲いていた。手が朽ちている奴もいる。胴体から黄色い物と赤色した細長いものを纏っているのもいた。


 お化け屋敷の準備なら良かったが、ここまでキツく漂わす鉄の匂いに、強くアレは本物だと本能から教わった。


 「ひっ・・・」


 思わず声が出た。あ、自分もこんな女の子らしい反応をするんだなと何故か冷静に思えた。

 

 「何なんだよアレ、早く通報しなきゃ」


 隣の男子が携帯をポケットから出し、あたふたしながらも連絡を取ろうとして。



 ぴちゃっ、ぺちゃっ、ぴちゃっ、



 水音が混じった足音が前から聞こえた、ぼやけていても大きくなってたので分かった。アレはこっちに来ている。


 「は、早く逃げよ、今すぐ・・・」


 自分に言い聞かせるように隣の彼に言った。そうしなければ今にも発狂をしてしまいそうだからだ。


 「あ、ああ、おいお前らはやぐ逃げろ!」


 彼はクラスの中に残っていた連中に怒鳴り上げると私の手を掴み一目散にあの何かと反対側の階段へと走っていった。


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