第2話 休み時間のとこのま

 「か、加藤・・・、どうしたんだ、そ、その手」


 先生がどうにか、くぐもれた声でもう一度聞いてみた。私からは加藤の左側は壁となっていて見えないが、壁側にいる女子達がいつもなら授業中でも喋っているのに、硬直して声も出せずにいるのを見ると、さぞ恐ろしいことになっているのだろう。

 クラスの連中も先生とその女子達の反応を見て静まり返っている。まあ寝ている連中は関係ないが。


 「せ、先生・・・、と、取り敢えず救急車を!」


 「あ、ああそうだ、きゅ、救急車だな・・・、お前らは加藤のことを見ておいてくれ、それとこっちで連絡するから電話で通報はするな、パニックになるから騒がないでくれ、いいな。」


 先生が逃げるように廊下を駆けると、すぐに足音は聞こえなくなった。辺りにはなにかを食べる音しかしない。


 「だ、駄目、早く逃げなきゃ・・・」


 硬直していた女子の一人が、真っ青になった顔で話し始める。



 「そ、そいつが食べてるのは、自 分 の 手 、よ!」



 ひっ、と細かい悲鳴がいくつも上がる。ドアや窓に手をかけて、いつでも逃げ出せれるようにしている人もいた。

 私自身も今すぐ逃げ出したい、しかし、ドアに駆け込めばすぐに詰まると思い、壁側の鍵を確かめた。


 「ねー加藤くん、君はなぁにを食べてるのかなぁ?」


 笑みを浮かべ、スマホで動画を取りながら数人の金や茶の入った髪型をしている男女が近づいている。


 「マジやばくね!?自分の腕むしゃむしゃ食べてるキ○○イ君に突撃インタビュー!」


 先生が居なくなると急に元気になるグループはいると思ったがこんな時でも健在なのな、驚いたわ。そんな奴らを横目にこっそりと扉から人が少しづつ出始めていた、きっと俺らのために囮となってくれてるのだな、うん。

 

 「おーい、きーこーえーてーまーすーかー!?」


「むしゃむしゃ食べてるけど痛くないの?もしかしてヤク中ぅッフー!」


 キャッキャと囮になってくれてる連中を横目に、そそくさと出ようとする。しかし目の前の長い髪の女子が硬直して動けないでいる。


 「ちょい、大丈夫か?」


 試しに声をかけてみる、すると彼女はこっちを見て。


 「あ、ゴメンなさい!腰抜かして動けなくて・・・」


 「あーうん、肩貸すよ、えっと藤宮さん?」

 

 肩を脇の下に通し、右手を腰に添えて持ち上げる。これで立てるはずだ。

 

 「あ、ありがとう。えっとごめん、名前なんだっけ?」


 自分の名前を覚えられなさすぎて少し泣けてきた。そこまで影薄いのか。


 「あー、うん、取り敢えずここ離れてからにしよう」


 そこにいる加藤くんに食べられる前にハードブレイクしそうになったのをなんとか回避し、ドアへと向かう。


 「ねーねー、写真ツーショットで撮ろうぜ!いい感じだろ!」


 「オッケー!キモいけど顔近づけて・・・」


 またあのグループはふざけてるのか、まあ関係ないが。


 「3...2...1...」

「はいチーズ!」




 ぼ


ぎっ


くちゃ、くちゃ




 なにかの硬いものが突然耳に触れたような音と、濃密な鉄の錆びたような匂いが教室内を濃密に、漂わす。


 「な、何の音がしたの・・・」

 

 ゆっくりと後ろを振り向くと、頭部がまるで割った柘榴のように淡いピンクの脳髄を元にあった茶髪の代わりにさらけ出して、床を髄液と血の混合物で染め上げていた。加藤という名前であった怪物は、手についた血や脳の残骸をクリームのように舐め上げている。

 恐怖も一周すると冷静になれると今知った。今すぐ逃げなければ命がないからかもしれないが。


 「後ろを見ずに全力で走れっ!」

 

 クラスの学級長の一言で他の連中も硬直が取れすぐにドアへと詰めかけた。


 「藤宮さんこっち!」


 近くにいた藤宮さんの手を掴み、廊下側の壁の下についている小窓へ体を滑り込まし、そのまま階段へと走り込んだ。


 

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