第4話

「茜ー、生徒会なににする?」

「うーん、楽なのがいいなあ。」

「やっぱそこだよね。」


ホームルーム中、今日はクラスで生徒会の委員決めが行われていた。


特にやりたいことも無いし、友達と雑談をしながら流れに任せようと思っていたのだが。


「あ。水野と橘は出版委員会で決まりな。」

「え・・・。」


予想もしていなかった先生の言葉に間抜けな声が出る。橘くんも驚いたように先生を見つめていた。


そんな私たちの視線を受け取ってから、にっこりと満面の笑みを浮かべた先生。


「お前らだけ、この前の数学の課題出してないだろ」

「・・・。」


・・・確かに、出してない。


別にサボっていた訳ではなくて、数学だけはどうしてもできない私ははるかに教えて貰ってから提出しようと思っていたのだ。


「これはもう決定だからな。意見は受け付けませーん。」


おどけて耳を塞ぐ先生にクラスから笑いが起きる。

いやいや、冗談じゃない。出版委員会と言えば仕事が多くて有名で、自分から進んでやりたいと言い出した人は見たことが無いくらいだ。


「よかったねー茜。橘くんと一緒じゃん。」

「・・・変わってあげようか?」

「遠慮しときまーす。」


友人とおどけて笑いながら橘くんの方を盗み見れば、「出版かよー、やったな」と男子に全力で弄られていた。


別に橘くんが嫌という訳では無いが、ただ、面倒なことは本当に嫌いだ。はあ、と小さくため息をついた。




その日の放課後、私達は早速委員会の仕事に駆り出されていた。


「水野さん、これまとめてもらっていい?」

「はーい。」


資料室で2人で作業する事30分。

もう関わる事はないと思っていたが、まさかこんな事で一緒になるとは。




作業が終わったのは、1時間ほど過ぎた後だった。

お疲れ様、と言葉を交わし、そのまま2人で昇降口へと向かう。


「水野さんが課題出してないなんて意外だった。」

「数学は苦手なの。橘くんは・・・そんな感じ。」

「・・水野さん結構バッサリいうよね。」


そんななんでもない話をしていれば階段も降り終え、昇降口へつく。


そして外を見れば。


「あ、雨。」

「・・・。」


雨が、降っていた。

胸がぎゅっと縮まる。


そんな私の変化に気づいた様子はなく、


「なんか水野さんと一緒にいると雨ばっかりな気がするなあ。」


「もしかして雨女?」なんて笑って話を振られたけれど、何も返すことが出来なくて無理やり口角を上げる。


・・・もしも私が本当に雨女なら、なんて皮肉なことだろう。


「・・・水野さん?」


橘くんは固まったまま動かない私の顔を覗き込む。

すぐに笑顔を作れなくて俯けば、橘くんは少し黙って、そして。



「・・・ねえ。」

「ん?」


私の方を真っ直ぐに向いて。


「これから、雨の日は一緒に帰ろう。」

「う・・・んん?・・・なにそれ。」


急に言われた言葉に思わず笑ってしまった。

そんな私を見て、橘くんは満足げに笑う。


「うん、水野さんはそういう顔の方が似合ってる。」


そんな真っ直ぐな言葉になんて返せば良いかわからくて俯いてしまえば、帰ろう、と橘くんは歩き出す。


・・・橘くんはやっぱり不思議な人だ。

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