第5話
「・・・雨だね。」
隣でにやっと笑うのは、はるか。
無言で軽く叩けば、「照れ隠しですか~」と更に私を煽る。
それから、雨の日は本当に橘くんと一緒に帰る事になった。
「じゃー、お邪魔虫は帰りまーす。ばいばい!」
「お邪魔虫って実際に使う人初めてだわ。ばいばい、また明日。」
雨の中颯爽と傘をさして歩き出すはるかに手を振って、昇降口で待機。
・・・なんか、とても変な感じだ。
委員会の仕事があれば話すものの教室では相変わらずほとんど話さないし、雨が降っていなければ、一緒に帰ることも無い。
雨が私達を繋いでる、そう考えたら、
なんとも言えない気持ちになる。
私は雨が嫌いで、
橘くんは雨が好きで。
でもそんな2人は雨の日には一緒にいるのだ。
おかしくて、皮肉で、でも嫌ではない気持ちがあって、グルグルと考えていれば人の気配を感じて。
「お疲れ、おまたせ。」
「ううん、お疲れさま。」
振り返ればそこには部活終わりの橘くん。
他愛もない話をしながら、土砂降りの中へと踏み出した。
最近、気づいたことがある。
息苦しくないのだ、橘くんと一緒だと。
気を抜けば溺れてしまうんじゃないか、
そう思うほど、私の世界は不安定に揺れている。
いつも胸が苦しくて、そして息苦しい。
その息苦しさは雨が降るほどに増す。それを緩和してくれるのは、今まで生きてきた中ではるかだけだった。
けれど橘くんと一緒なら、雨の中を歩いても息苦しくない。すっ、と何かが抜けていくような感じがして、溺れそうな感覚から抜け出せる。
・・・本当に、彼は不思議だ。
「で、橘とはどうなの?」
「だから何も無いってば。」
この話は何回目だろう。普段こういう話なんて絶対しないのに、はるかは何故かとてもノリノリである。
放課後、教室の隅でお菓子を食べながらはるかのバイトまでの時間を潰していた。
「そんな事ないでしょ!橘はいいやつだよ〜」
最近まで知らなかったが、どうやらはるかと橘くんは知り合いだったらしい。なんでも去年生徒会が同じだったとかなんとか。
「・・・それより、この前のはるかのお母さんの煮物美味しかった、ありがとう。」
「ほんと?お母さんも喜ぶよ。」
昔から付き合いのあるはるかはよく家に色々なものを持ってきてくれる。今は祖父母と3人で暮らしている私だが、おばあちゃんもはるかのことをとても気に入っていて、はるかが来るといつも嬉しそうだ。
「私に出来ることはなんでもいってよね。」
笑って軽く言った彼女だけど、その言葉はいつも本気でとても心配してくれている事を私は知っている。
「・・・ありがとう。」
「いーえ!さ、帰ろ。」
外を見れば今日の天気は晴れ。
表情に出しているつもりはなかったけれど、よほど安堵した顔をしていたのか、「大丈夫だよ」と笑われた。
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