第6話

そんな生活をしていたから。雨がザーザー降りのある日、1人で帰るのはとても久しぶりだった。


橘くんは今日は部活の後に先生に呼び出されていて、遅くなっちゃうから、と教室でわざわざ伝えに来てくれた。


周りもざわざわしていたし友達にもどういう事かと聞かれたけれど、私自身もどう答えればいいか分からなくて曖昧に笑うしかなかった。


窓ガラスにぶつかる雫を見ながら、ため息が出そうになるのを堪える。久しぶりにのしかかる息苦しさは全てを潰してしまいそうだった。


しかし、今日は雨が止む予報はない。それどころかどうやらこれから夜にかけて本降りになるらしい。


・・・帰ろう。


重い体を動かして、傘をさして帰り道を急いだ。




慎重に、慎重に、あの日の記憶に溺れてしまわないように、歩く。


大丈夫、私ならできる。


焦らないで、ゆっくり帰ろう。



「お母さん!」


順調だった、途中までは。


帰り道にある幼稚園の傍で、小さな青い傘を差した男の子が、隣に立つお母さんに手を差し伸べる。


心臓の音が大きくなり始めて、すぐに目を逸らす。

落ち着けと自分をなだめるが、呼吸は早くなり始めていて。


バシャバシャ、と水が跳ねる音がする。

水たまりに楽しそうに笑う男の子が、ああ、駄目だ。


『・・・ちゃん。』


『おねえちゃん!』


あの日の姿と、重なった。



世界が歪んだ。息苦しさが頂点に達する。きっとここは雨の中。

お揃いのカッパ、お気に入りの長靴。色違いの傘は私がピンクで、彼が青。記憶がぐるぐると交差して、あたりがぐらついて、景色が暗闇の中へと消えていく。



ああ、溺れる__。

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