第8話
二人の剣が交錯した。
ハクのは魔法で作った剣だが、分子振動によっていわゆる振動ブレードとなり、切れ味はそこらの刀剣などよりは保証できるものとなっている。
オルバの剣も、国の騎士団長をしていたというだけあり、年季は入っているものの一級品の業物で、その切れ味は申し分ない。
その二つの鍔迫り合いは、火花を散らし圧し合い経し合い、互いの力をぶつけあう。
「軽いんだよ糞ガキがっ!!!」
拮抗しているかと思われたが、ハクは宙に浮いた状態の腕の力のみで振って、魔力で推進力を得ているに過ぎず、これでは腰の力がまったく入らない。
オルバに簡単に体ごと弾かれて、ハクはくるくると空中で回転しながら後ろに跳ぶ。
足のハンデがあるとはいえ、ややハクが劣勢。
相手方が魔法を使えないことを考えれば、五分とも見えるが、機動力は何ものにも代えがたいハンデではある。
いくつものハンデを抱えた勝負だが、ハクもそれを承知で挑んでいる。
それに対してなんの準備をしないほど馬鹿でもない。
ハクは足元の地面に対して魔力を使い、掘り起こした地面を自らの足に装着していく。
そして、ハクの体がやや浮くぐらいの高さになると止まり、即席の土の足が完成した。
足本体は固定されていて、踏ん張っても痛まないようになっている。
「魔力の使い方も慣れたら簡単だな」
というよりハクは知っている。知りもしない見えもしないはずの魔力の使い方を。
かつてを懐かしむように、魔力はハクに従順だ。
「やっとまともに斬り合えるんだなクソガキ」
「一つ言っておくぜおっさん。喧嘩売るときは名前を覚えておきな、俺の名前はハク!てめぇより強ぇ奴の名前だ覚えとけっ!」
「つくづくムカつくガキだな。名乗りをあげたからには、俺はガキじゃなく男として勝負してやるよハク!ただし強ぇのは俺だぁぁっ!」
オルバは叫びながらこちらに走ってくる。
ハクも、土の足に「頼むぜ」とおまじないのように呟いたあと走り出す。
ガッシガッシ走る姿は不恰好だが、走る分に支障はない。
走る勢いをそのままに、振るう二人の剣閃が交錯した。
離れて一瞬仕切り直して、再び打ち込む。再び交わったところで、今度はその場で前に踏み込んでの斬り込み。首を狙ったが、ハクの身長では浅く、少し触れただけで鋒は大きく逸れる。
返す刀で、オルバが頭上からの幹竹割り。大人一人分の全体重を乗せた攻撃は、ハクの体にズシリとおよそ倍のGをかける。
「やっと面白くなった。戦いってのはこうでなきゃなぁっ!」
かかっていた重力はさらに重くなる。
土の足の重さも相まって、ハクの体は地面へと徐々に沈んでいく。
(このおっさんなんつー馬鹿力してやがるっ…!)
「フリーズンスピアッ‼︎」
力では勝てないと、早々に見切りをつけて魔法を織り交ぜての戦い方に切り替える。
オルバの背後に、数本の氷でてきた矢じりの先のような形状のものが生み出され、オルバ目掛けて飛んでいく。
と、同時にオルバが避けたときに自分が食らうリスクを避けて、ハクも後ろに飛び退く。
「わかってんだよっ!てめぇが魔法を使うことくらいなぁっ!」
オルバは背後の氷の塊を、振り返らずに全て撃ち落とし、しかも塊の真ん中を綺麗に真っ二つにしていた。
ここまでの行動すべては読まれていたように、何も通じない。
これではまさに大人と子供の戦い。まるで勝負になっていなかった。
「おまえはいま、魔法を使って俺の攻撃から逃げた。つまりそこがおまえの限界ってわけだ。これ以上泳がせても無駄そうだな、終わりにしようか」
「ああそうだな終わりにしよう」
ハクから出た意外な言葉に、オルバはへぇと驚きと意外だというのが入り混じったような表情をする。
「隠し玉があるってのか?ハッタリで時間を稼ごうってんならやめたほうがいいぜ。どのみちおまえらは助からない。俺一人でもこの街潰すくらいは訳ないからな」
「ハッタリ?そうかあんたにはハッタリに聞こえたか。なら見せてやるあんたを殺すために用意した俺の全力を」
と、そのとき天が啼いた。
雷が瞬き、落雷がハクの周りを囲み陣を作る。
そして地が光り出し、巨大な光の魔法陣を描く。ちょうどハクが用意した罠でできた大穴を中心にして。
「なんだこれはぁっ!?」
「天の嘶き、さざめき、地の祈り、捧げ申し上げる。天より顕れ、悪しき穢れを殲滅せよ
–アドラメレク–」
ハクの詠唱が終わると、ハクの目の前でズバンッと雷が鳴って、いきなりのことに一瞬瞬きして、目を開いて見れば雷の化身–アドラメレク–の姿がそこにあった。
青年のようだが、体につけられた傷の夥さから、歴戦の強者であることがわかる。
「そうかこのために罠を仕掛けてやがったな」
「そうだすべてはこいつを召喚するために用意した」
「雷神アドラメレク。それがおまえの切り札かそれは勝てねぇなぁ…いいぜ俺の負けだ好きにしろよ」
正直恨みとかは一切ないのだが、ここで逃すより殺しておく方がこちらの利益は大きい。
「やれっ!アドラメレク!」
オルバは一歩も動くことなく、消し炭となり、その場所には雷が落ちて焦げた跡と、焦げた匂いだけが残った。
そしてアドラメレクは役目を終えて、天へと還っていった。
終わったと、息をついた瞬間全身から力が抜けて倒れそうになる。
魔力の使いすぎで、元々弱っていた体は、本格的に限界のようだ。
その場で死を悟った。
(ごめん…姉ちゃん)
不意にジェシカのことが頭をよぎった。と、そのときハクの体は誰かに抱き上げられた。
「間に合った…」
息を切らしながら、ジェシカが倒れそうになるハクを抱き抱える。
おそらく結界が切れた瞬間に、全速力で走ってきたに違いない。
実際には結界はアドラメレクを呼び出した瞬間に効力を失っていて、ハクの魔力はその時点から空の状態だったのだ。
「姉…ちゃん…」
「ごめんねもう無茶しないで」
ジェシカはごめんと言いながら、涙を流して怒っていた。
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