第46話 本当の解決、そして提案
「よしよし、つらかったのね。いっぱい、泣いていいのよ」
そうして彼女は僕をなだめてくれる。
温かみを感じながら僕は泣いて泣いて。
涙が枯れてきたころに、僕はやっと正気を取り戻す。
でも出た言葉はなかなかにお粗末だった。
「君は、僕じゃないの?」
その言葉に彼女は笑う。
「当たり前でしょ、ってこの状況じゃあ、そういうわけにもいかないか」
笑う彼女の姿は美しい女神さまのようだ。
ほっとして息を吐き出す。
そして自分が今まで過呼吸のようにしか呼吸できていなかったことに気付く。
ずっと焦って、妄想の中で、幻覚の中で息が出来なかった。
呼吸を整えた僕に、彼女は笑いかける。
そして、僕の尋ねて欲しかった質問を、彼女はしてくれる。
「何があったの?」
僕は、その言葉に咳を切ったように話す。
すべてを。
事の顛末を。
最初から本当は一人っきりだったということを。
その話をこの間のようにうんうん、と彼女は聞いてくれる。
僕が初めて会った正真正銘僕以外の人が、僕を受け入れてくれている。
その喜びは果てしなかった。
そして、彼女に恋した自分の気持ちが間違っていなかったということに、初めて恋した人がちゃんと自分ではなかったことに僕は天にも昇るような思いだった。
すべてを聞き終えた彼女は、僕を抱きしめこう言ってくれる。
「あなたも頑張ったのね」
その言葉が引っかかって、僕は尋ねる。
「あなたは、あなたには、どんなことがあったの?」
そう聞くと、彼女はまた笑みを浮かべる。
そして話し出す。
彼女自身も聞いて欲しかったに違いない。
今度は僕が彼女の話を、人生を聞く。
異世界転生し功績を上げたにも関わらず、元の世界に戻される彼女。
それを彼女は、何度も何度も繰り返す。
違う姿になって、違う性別になって、人種さえ変わって。
そうして何度も繰り返すうちに、彼女は気づいた。
目の前の老婆も、少女も、中年の男性も、自分のいつかの姿であるということに。
そして彼女は次の転生の時、神様に詰め寄った。
あの世界には、自分しかいないんじゃないか、と。
その言葉に、神様はうなずく。
そしてそうして詰め寄った神様も、自分の元の姿と同じであることに気付く。
気付いてしまった彼女は説明を受けた。
魂の工場。
魂が不足した結果異次元の人々によって設計されたそのシステム。
神様としてオリジナル他、自分自身を管理させるという卑劣なやり方。
そして神は、オリジナルには手を出せないルール故、この悲しみを終わらせることが出来ないということを。
「だから私は、同じ苦しみを背負っていた君の元に転生させてくれるよう頼みこんだ。君なら一緒に世界を救ってくれると思ったから」
彼女の言葉に僕は首を振る。
「僕はここにいなきゃいけない。それがオリジナルである僕の定めなんだ」
その言葉を彼女は否定した。
「あなたが運命づけられているのは寿命まで生きて次の転生をするって事柄に過ぎない。私はこの世界を、あなたを救いに来た勇者。だから、私はあなたを他の世界に連れて行ける」
僕も、異世界に、行けるのか。
僕でも、異世界転移した僕になれるのか。
彼女は僕に向けて手を差し出す。
「カナメ君、一緒に世界を救いましょう?」
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