第42話 君になりたく、ない

「君らを……消す?」


僕はつぶやいて、僕から分岐したという面々の顔を見る。

彼らは、僕から分岐した存在。言うなれば、僕が将来なるべき可能性だ。

だからこそ僕の魂を賭けることで、すべてを救えると思っていた。

でも、僕が未来を自分で選ぶということは、可能性として存在出来ていた彼らを消すということになるらしい。


これは、ひどい失態だ。


「じゃあ、僕がゲームに負ければ!」


「それなら私が生きてきた時間はなくならないから、娘はあの世界に残る。私はそれが一番ありがたいけど、他の人はどうかしらね。自分がここで消えるその選択を承知するかしら」


そう言ってマミが残りの面々を見る。

彼女の視線に目を逸らす母さん、父さん。

そうか、もうゲームに負けた人たちからしたら、僕らがゲームに負ける=消滅ということになる。

シャドウの魂を賭けて挑んだこのゲームは、悲しみしか産まないのか?

このままでは、彼は無駄死になってしまう。


「私が、もっと考えていればっ」


そう言って落ち込んだのはもちろんシャドウだ。

それもそうだろう。自分の次を賭けてくれたのに、結果みんなを消すことになるなんて救いがなさすぎる。それに、彼の失態じゃない、これは僕のエゴが産んだ悲しみだ。神の世界の、転生のルールに無知だったくせに、すべてを助けたいと思った僕のエゴのせいだ。

考えろ、きっとみんなが幸せになる道があるはずだ。


訪れる沈黙。

答えは出ない。


選ばなくてもシャドウが、そしてゲームに負けた3人は消える。

そして選んだとしたら、選んだ人間以外がそもそも存在しないことになってしまう。

それならば選ばないほうがいい。

けれど、そうしてしまったら、シャドウの次をどぶに捨てたことになってしまう。


一番関係ないはずの魂が意味もなく犠牲になるなんてそんなの許されるはずがない。


「ま、俺には関係ないことだろ? だって俺が分岐したのは過去のことなんだからさ」


状況を理解しているのか分からないが、軽い調子でその場の空気をぶった切ったのは”僕”だ。

みんなから悪意のこもった視線を受けるが、彼はどこ吹く風と言った様子だ。

どういう神経したらそうなるんだよ。

お前の異世界での相棒だった、シャドウの魂がかかってるんだぞ。

ここは僕が言わなくては、と口を開きかけたとき、テンが爆弾を投下した。


「神の世界において、過去・未来は関係ありませんよ。カナメ君という魂から分岐したすべての魂が対象です。つまり、あなたも例外ではないのですよ」


「わけわかんねぇよ。俺がどうなるって言うんだ」


一度では理解できない”僕”ににまりと笑って、テンはかみ砕いて伝えた。


「つまり、選ばれなければあなたも消えるということです」


その言葉に目を見開く”僕”。僕としてもそれは考慮に入れてなかった事柄だった。

彼は無言で実体化しているシャドウに詰め寄る。

胸ぐらをつかみ今にも殴り掛かろうとしている彼を、僕は祖父と一緒に止める。

止められながらも、彼は大声でわめいた。


「おいお前。元の主人に対してなんてひどいことしたかわかってんだろうな、俺が消える? 冗談じゃない。お前の魂で俺を救って見せろよ。あ?」


「落ち着いて」


異世界の僕の、本性を見た気がした。

止めてなかったら彼はシャドウを殺してしまっていたかもしれない。

そんな殺伐とした雰囲気。

僕は彼にはなりたくない。でも、ここでシャドウが殺されてしまうくらいなら、彼のご機嫌を取らないといけない。

僕はこのゲームに一番詳しいであろうテンに、質問する。


「僕がもし、異世界の僕を選んだら。今ここにいる僕は、どうなってしまうのかな」


異世界の僕に可能性を見せる。彼を選ぶことも検討しているということを伝える。

僕の言葉に反応して、異世界の僕がシャドウをつかむ手が少し緩くなった。

僕は何としてもシャドウを”僕”から守ってみせる。


「きっと消えてしまうでしょうねぇ。そしてすべての可能性は異世界のカナメ君に収束する」


あれっ、と声を上げたのはマミだ。


「ねえ、それだとパラドックスが起こらない? 今この時点のカナメ君がいなくなるとしたら、シャドウ君の魂を賭けたゲームそのものが開催されないことにならないかしら」


マミの言葉は僥倖のように思えた。

それを利用できないか。


「ふーむ。それは確かに。私もすべてを知っているわけではないですから。どうなるかわかりませんね。もしかしたら、すべてが元通りってこともあるかもしれません」


テンも首をかしげる。

その言葉に、勝ち誇ったように鼻を鳴らしたのが”僕”だ。


「誰も彼も救いたいのなら、ワンチャンにかけて俺を選べよ。それが確率高いんだろ、異世界転生俺」


ヤクザのような詰め方をしてくる”僕”。

できなかった、とはなかなかに僕の嫌いな言い方をしてくれる。

武力中心の世界で、こういう風に生き残ってきたんだろうなと、僕は肌でひしひしと感じる。

でも、この世界は武力だけでは動かない。

魂を賭けた戦いだ。

力では、魂を屈服させられない。


すべてを救えるんだとしても、僕は君だけは選ばない、選べない。

君になんて、絶対になりたくないから。

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