第41話 話し合い

「それは、母さんの元の姿が僕だからだよ。僕の転生をかけたゲームの挑戦者がいるんだ」


呆然とする母さんに僕は言ってやる。

しかし、この言葉に反応したのは、祖父だった。


「それは本当なのか、カナメ!」


随分焦ったようなその様子に、僕は少し驚く。

命のやり取りをしたときも取り乱していなかった祖父の様子がおかしい。


「本当だよ。なにか問題が?」


「大ありだ。くそっ。そんなゲームをしている人間がいるならいくら私の条件が達成されても、意味ないじゃないか」


その発言に理解が追い付かない。

なんだ、僕の転生をかけて勝負をすることで、みんなが救われる、それは素晴らしいことじゃないかと、疑問ばかりが頭の中を駆け巡る。


「いいかい。君の転生をかけるということは、くそっ。言ったところでもうどうしようもないのか。カナメ、とりあえずお前が知っている今回のゲームに関係している人間を全員集めてくれ。話し合いをしなければならない」


追加の説明もなくどういう意味かはわからなかったが、祖父の言うことだ。従っておいた方がいいだろう。

僕はマミの自宅と、携帯からテンに電話をかけ、僕の家に集まるように言う。祖父も一本電話をかけているようだ。先ほどよりは大分落ち着いた様子だ。

そして、母さんも対象外であることを先ほどのアナウンスで確認できたため、”僕”を影から吐き出し、シャドウを実体化させた。

これで僕がこの場に呼べるゲーム参加者は全員だ。

その様子を見た祖父が感嘆の声をあげる。


「なるほど。君は魔法のある所に転生していたんだね」


「おう、そうだぜ! 俺の世界はな……」


そんな祖父は”僕”の話に聞き入るのではなく、なぜか僕の方を注視していた。

魔法自体には興味がないってことか?


「カナメは魔法使いになりたいと思うかい?」


「なりたいとは思うよ。でも、こいつみたいになるのは嫌だ」


素直な気持ちを言ったその言葉は祖父のお気に召したようで、祖父は嬉しそうに笑う。

彼が何を考えているのか、僕には本当に見当がつかない。


しばらくして、マミとテン、そしてもう一人やってくる。父さんだ。

祖父の話を嘘かと疑っていたが、父さんがまだ存在している。ということはつまり、父さんの魂も、もとは僕と同一だってこと。あの時排除されようとしていた父さんが、僕らの行動で今行かされている、つまり確定的。


これで僕は、祖父以外の元の姿を知ることが出来たわけだ。

あと何人ゲームの挑戦者がいるかわからないが、着実に進んできている。

公園で会ったあの女性のことも気がかりだが、ゴールは近いと信じたい。

いや、待て今はこの状況を理解することが大切だ。祖父が僕の話を聞いて、なぜこんなに焦っているのか。


全員が集まって並び立ったところで、祖父がこほんと咳ばらいをする。


「ゲーム参加者諸君。お集まりいただき感謝する。まあ、半数以上がゲームオーバーになっているがな。みんななぜまだこの世界に存在しているか疑問に思っていることだろう。カナメ、説明を」


促されて、僕は少しどぎまぎしながら答える。


「このシャドウに、僕の次の転生をかけたゲームに挑んでもらっています」


その言葉に目を見開いたのは、父さんとマミ。

そう言えばマミには僕の転生をかけているとは言っていなかったか。

二人が祖父と同じような表情をしたことに僕は驚き、ショックを受ける。

何か僕がまずいことをしてしまった、それがわかる表情を二人がしていたからだ。


「どういう裏技を使ったら私のこと生かしておけたのかってずっと考えてたんだけど、なるほどそう言うことだったのね」


嬉しいとも悲しいとも取れない微妙な表情でマミが言った。


「つまり、この話し合いでは、誰を残すか、ということを決めたい、というわけですね、とうさん」


眼鏡をくいっとあげなから言う父さん。

だからなんだって言うんだ。

もういい加減説明してくれ。


頭がこんがらがる僕をよそに、すでに理解した面々の話し合いは続いていく。


「そうだ。ゲーム参加者は、ここにいるもので全員。全員で話し合って決めようじゃないか」


祖父の言葉に、いの一番に反応したのは母さんだ。


「私を消すなんて納得できないわ! カナメには私を選んでもらう」


「そうは言っても我々はすでに敗北者。魂の処遇は保留されているに過ぎないから、そもそもこの話し合いに参加する権利があるのかも怪しい」


それに疑問を呈する父さん。


「それだったら私も何も言えないね。あの子が生まれなくなっちゃうのは悲しいけど」


マミの言葉。

おいおい、誰を選ぶ、誰を消すってどういうことなんだ。


「条件が生きている二人から選べばいいんじゃないか? とうさんと、そこの転生者がそうなんだろう? 条件を達成したほうを生かせばいい」


その言葉に祖父は小さく首を振る。


「私の条件は私をのぞくすべてのゲームの終了を見届けること、だ。シャドウ君のゲームが加わった時点で私が選ばれない限り達成不可能になった」


「では、そこの転生者は?」


父さんに尋ねられて、不気味な笑顔を浮かべるテン。


「いえ、私は、私の生を終了させることができるのならそれでいいので、別に選んでもらわなくても目的は達成できるのですよ」


沈黙。

そして腕を組んで考え込んでいる面々。

さすがの僕も、あまりの説明のなさに、堪忍袋の緒が切れる。


「いい加減にしてくれ! どういうことなんだよ。僕の転生をかけた勝負なのに、なんで誰かを選ぶ話になってるんだ!」


叫んだ僕。

再び広がる沈黙。


しばらくしてそれに答えてくれたのはマミだった。


「カナメ君。言いづらいんだけどね」


そうして言いよどんで唾を飲み込む。

なんなんだよ、いい加減にしてくれ。

思わず怒鳴ろうとしたところに、マミが告げる。


「このゲームの勝利者は自分の転生を選べる。つまり、一つに絞れる。あなたが転生先を選ぶってことは、可能性であった残りの私たちは消えるってことなのよ」

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