第43話 ゲームの回答
「カナメさん。彼を選んでください……」
悲し気な顔をして僕に懇願するシャドウ。
彼は決して武力に屈したわけではない。ただ、可能性がある側にかけてほしい、それだけだ。
気持ちがひしひしと伝わってくる。
「私もそれで構わない。もう人生は十分全うしたさ。転生者さんも、異論はないかね?」
「ええ。私は私が終わるのなら何でも。この魂がこれから他の世界で使い古されない選択ならなんだって受け入れますよ」
祖父の言った言葉にテンも同意する。それに父さんとマミも同調した。
母さんがだけがふてぶてしくどこかを眺めていて、議論には参加しない。
6人の意見が一致する。
そして僕はその時やっとあることに気付く。その遅すぎる気付きに、僕は自分を呪った。今までその前提で話が進められていたのに、どうして僕は気づかなかったんだ。
「おじいちゃんも……そうなの?」
そう、ゲームの意味がないとか、誰を消すかの話し合いに参加している祖父も、僕の魂の可能性の一つだってことに。
「ああ。そうだよ。そして私は私の条件で、ここにいるのがゲームの参加者全員だってことも知っている」
つまり、それは。
選択の時はもう目の前に迫っていたということだ。
まだゲームの参加者はいるんじゃないかと、僕はどこかで期待し、それにすがろうとしていた。異世界の僕を選ばない方法を模索する時間があると思っていた。
でも、僕はもう、全員の元の姿を知ってしまったというわけだ。
この世界で僕が一緒に過ごしてきた全員がもともと僕の魂を持っている。
僕は結局、僕自身の可能性にずっと踊らされていたってことだ。
愛されない苦しみも、押し付けられる好意も、尊敬した相手も。
全部僕自身の幻だったってことだ。
なんだか、今までの人生が急にどうでもよくなって。
まあ、僕も消えるわけだし、あんなポジティブな異世界の僕になってやってもいいかななんて考えたりしてしまう。
諦めて、乾いた笑みを浮かべて僕は。
天に向かって、神様に届くように叫ぶ。
「僕とシャドウはゲームの条件を達成した! 転生の願いをかなえてくれ!」
半分やけくそで叫んだその言葉。
光に包まれるのを予想して、全員が目を閉じる。
けれど、その瞬間はいくら待ってもやってこない。
「どういうことなの」
母さんの言葉を皮切りにみんなが言い合いを始める。
にやにや笑うテンの顔が僕の目にうつる。
でも僕は正直どうでもよかった。
どうやってもシャドウは救えない。
僕の人生だって、ただの自作自演みたいなもんだ。
じゃあ、何を焦る?
僕は何だって望みやしない。
やいのやいのとみんなで言い合う中で、いつの間にか疑いの矛先はテンに向いていった。
「テンさん。あなたは最初から怪しかった。あなたが元の姿を隠しているんじゃないですか?」
前の僕の思考を引き継いだようなシャドウの言葉。
そう、もし僕も疑う気力が残っていたのなら、彼にそう詰め寄っただろう。
でも、シャドウ。
もういいんだ。
君を助けられないのなら。
このまま一生条件を達成しないまま、命が終わっていったって。
そうか、そっちの方がいいんじゃないかって気がしてくる。
だって、期限もないし。
みんなで面白おかしく、暮らしていけばいいんじゃないか。
結局誰も彼も僕なのだけれど。
「そもそもテンさん。マミさん、お母様、お父様の3人から私たちを隠す条件は達成されてるんじゃないですか? 三人とも不達成で条件から外されたわけですし。なのに、なぜまだここにいるんです?」
シャドウが詰め寄る。
ぼんやりとする頭でああ確かになぁ、とそんなことを思う。
シャドウの言葉に、今までで一番愉快だと言うようにテンは笑った。
「さすがの名探偵だね、シャドウ君。異世界の彼から、知恵を抽出して作られただけはある」
「はい?」
聞き返すシャドウに、テンはくっくと笑って言った。
「そもそもおかしいと思わなかったかい? その存在の影とはいえ、別の魂をくっつけたまま転移させられるなんて。魂の移動はそんな低コストじゃない。つまりどういうことかって言うと、おっと直接は言えない決まりだったな」
みながそれを理解するまでに数秒の時を要する。
そしてその意味に、全員が気付く。
「まさか、私も、カナメさんの魂から作られたってことですか」
決定的なその言葉をシャドウがつぶやく。
驚きながら言われたその言葉は、僕の脳みそを強制的に再起動させた。
つまり、それは。
シャドウのそれが僕の魂をもとにしているのならば。
彼を救う術があるということではないか。
急に光が見えてくるとともに、僕の心に暗いものがさす。
結局、関係ないと思っていたシャドウの魂さえ、僕の物だった。
僕の人生はなんていう茶番なんだ、と。
そこで僕らは光に包まれる。
どうやら、宣言なんて関係なく、達成したら強制移動させられるらしい。
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