第37話 最初の調査対象

「それは、なんというか……」


テンが言いかけて黙る。

適切な言葉が思いつかなかったのだろう。


「なかなかに高い難易度に設定されてしまいました」


苦々しげな顔をしながら言うシャドウ。

条件を神から聞いた時、彼も反発したのだろうということが容易に予想できる顔だ。


シャドウが訴えても駄目だったということは条件自体変えることは不可能。

つまり、今すべきことは状況の整理だ。

この5人が持っている情報をつき合わせる。(一人役立たずがいるが)


「まずは、今持っている情報を整理しよう。僕らが把握しているゲーム参加者は、シャドウ、テン、父さん、母さん、マミの5人だ。その中で元の姿がわかっているのは3人」


「ってことは、父さんと母さんの正体突き止めれば俺たちのゲーム勝利ってことか!」


嬉しそうな声を上げる単純馬鹿の”僕”。

もうちょっと考えていこうよ。


「そうとも限らないわ。ゲーム参加者がこの5人だけとは限らないもの。私たちの知らないところにも参加者はいるかもしれない。シャドウさん、神様からは何か聞かなかった?」


「すみません。人数についてははぐらかされました」


マミの意見に完全に同意。

そしてシャドウがそのヒントを持っていないとすれば、可能性があるのはあと、


「テン、あなたは僕らの把握している以外のゲーム参加者を知ってますか?」


僕の質問に彼は考えている様子で少しだけ間をおいて回答してくる。


「答えはイエスだ」


「お、それ誰なんだよ、教えてくれ!」


軽い様子で尋ねる”僕”に対するテンの口は重い様子。

なにかあるのだろうか。


「すまない、私がそれをしゃべってしまったら、ルール違反になるかもしれないのでしゃべれない」


「ルール違反?」


不服そうに言う”僕”。それくらい察しようよ。

彼の言い方で大体の予想はついた。


「テンは前世で僕として今を経験してる。だからその名前を直接言うことは、条件とは別に定められたルールに抵触する可能性がある。そういう理解でいいですか?」


「ああ。さすが私だね。話が早い」


確認のためにも思っていたことを口に出して、テンに肯定される。

この条件を達成する上で情報源としてのテンを失うのは痛手かもしれないが、そこはルールだ。しょうがない。彼には出来る範囲で協力してもらおう。

少なくとも過去僕だった彼が、他のゲーム参加者を知る機会があった、ということだけでもある意味収穫なのだから。


こほん、と小さく咳ばらいをして僕は続ける。


「僕らはこの条件を達成するために、父さんと母さんの元の姿を探りながら、他のゲーム挑戦者のことも調べなきゃいけないってわけだ。シャドウ、期限は?」


「特にないと言われました」


それはありがたい。そして順当だ。なんてったって容疑者は全世界約80億人だ。

僕の知らない人間も含まれるのなら、一生かかっても見つけられない可能性だって大いにある。

それにたとえ期限が短いからって僕の知っている人だけという推測は成り立たないのだからたちも悪い。あの神の仕事だ、そもそもが達成可能な条件で設定される確信は持てない。ならば期間は長いほうがいいに決まってる。


「ゲーム参加者って何人くらいいるのかしら……」


マミのつぶやきには誰も答えないし、答えられない。

彼女も回答が得られるとは思っていないのだろう、つぶやいて考え込んでいる様子。

せめてヒントでもあれば、と思考を巡らせていたところに、シャドウがあ、と声を上げた。


「そういえば神が言っていました。ゲーム参加者はすべてカナメさん、あなたに関係する、と」


「僕? 確かに今わかっている5人は僕に関係しているか」


幼馴染、家族、シャドウ、そして前世が僕であるテン。すべて僕の関係者だ。

それならば、もっと容疑者は絞り込めるかもしれない。


「だけど、前世がカナメ君という関係性なら、地球の裏側にいる人間の可能性もあるんじゃ」


「そうかもしれない。でも、希望はある」


マミの言葉に意見しながら、僕は考えた。

サンプル数が少ないのが気になるが、わかっている4人の条件をそれぞれ思い出す。

すべて、僕の周囲の事柄に関係している。

このことから導き出される推論は。


「ゲーム参加者はすべて、僕とその周囲に関係する条件を持っている?」


確証はないし取れっこない。

でも、容疑者を絞り込むにはこの条件で考えていくしかないように思えた。

そしてこの仮定が正しいのならば、放っておいても対象者が近づいてくるのではないか。それならば。


「とりあえずまずは、参加者だとわかっている人の元の姿をつめていこう。父さん、母さん、二人の元の姿についてだ。マミ、父さんについて何か知っていることはある?」


「ごめんなさい。ユズルさんとは相手のことはお互い追及しない約束だったからわからないの」


「ヒントなしか、つらいな。それに父さんはもうこの世界にはいないわけで、一旦保留するしかないかな」


保留は大きな心配事だが、致し方ない。まだ時間はある、そう言い聞かせて心を落ち着かせる。

動いて探っていけるのは、もう一人か。

彼女をつめれば、父さんに関する情報も出てくるかもしれない。

何しろ二人は夫婦になって、僕を引き取ったのだから。


「これから、母さんの元の姿を追う。みんなそれでいいね」


四人全員がうなずく。

そうして僕らはさらに詳細な作戦会議を行っていった。

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