第36話 神のまにまに
「おい、大丈夫か。何があったんだ」
目を覚ますと目の前には変身を解いた”僕”と、テンの姿。
ここはどこだと周囲を見渡してみると、僕自身の部屋だった。
近くには意識を失っているマミもいる。彼女はなぜか目隠しをされていた。
混乱する。
僕たちはどうしてここに? どうしてテンが?
「父さんと戦った後、俺はそのまま家に帰ったんだけどさ。部屋の中が急に光に包まれたと思ったら意識を失ったお前らが目の前に現れたんだよ。で、なかなか目覚めないから心配になってお前が持ってた携帯でコイツを呼んだんだ。病院に連れてくわけにもいかないしな」
説明どうも、”僕”。
つまり僕らは神の力によって家に戻されたらしい。
でも、マミまでここにいる意味がわからない。僕らのゲームが成功したら彼女は救われるかもしれないが、今の彼女はゲームの敗北者のはずだ。
『神がそちらの方が面白いと判断したようですね』
「シャドウ」
頭の中でシャドウの声が響く。
僕はすぐに彼を実体化させ、詰め寄った。
「どうしてあんなことを願ったりしたんだ」
その言葉に苦笑いのようなものを浮かべるシャドウ。
「だって、あの状態で神からマミさんたちを守るにはそうするしかなかったでしょう?」
「だとしてもだ! シャドウが魂をかける必要なんてなかっただろう? やるなら、こいつに命を賭けさせればよかったんだ」
「ほえ? どういうこと?」
僕に指を差されて、きょとんとした顔を浮かべる”僕”の怒りがふつふつと湧いてくる。お前がシャドウを連れたままこの世界に戻ってしまったせいで、シャドウは次を失うことになったんだぞ、と見当違いな怒りを覚えてしまう。
やつあたりだ、そもそもが神のずさんな転移が原因だとわかっている。
でも神に当たれない現状で僕はこのやるせない気持ちをどこにぶつければいいかわからない僕は考えてしまう。
「まあまあ、落ち着いてください。すると、シャドウ君がゲームに挑むことになったんですか?」
一人落ち着いた様子のテンが、僕に尋ねてくる。
僕は何度かテンとマミの間を視線を行き来させ、彼女が目隠しをされている理由に気付く。条件を守るため、”僕”達を見させないようにするためか。
でもそれは不確実すぎやしないか?
僕は彼に対する疑いを強め、その気持ちを言葉にする。
「ねえ、テン。マミをここに置いておくのは君の条件的に危ないんじゃないか?」
その僕の言葉に応えたのは、テンではなくシャドウだった。
「彼女はもう問題ないと神が言っていましたよ。他人のゲーム失格のきっかけにはならない。そして保留にしておくのも面倒だから、世界に戻しておくとも」
神様の適当もいいところだ。
そしてシャドウと、息が合わない。
それはシャドウが実体化して初めて得られた情報。テンへの疑いの払拭にはならないし、シャドウがそれを言ってしまうことで追及がしづらくなってしまった。
本当に目隠しなんて不確実な方法で彼は満足だったんだろうか。
ただ、一つ朗報はあった。
テンが疑わしい今、マミという確実な味方が出来るのはいいことだ。ゲームを一度諦めた彼女には僕らをだます理由がない。信用できる。
「うーん」
マミがうなり声をあげて体を動かした。僕らの声がうるさかったのだろうか、目を覚ます。僕は彼女の目隠しを取ってあげた。
そして彼女はゆっくりと目を開けて周囲の状況を確認した。
「あれ、私どうしてまだ……」
「神の好意みたいだよ」
戸惑う彼女に僕はやさしく話しかける。
「好意、って、え? なんで三人もカナメ君が、それにもう一人は?」
僕の言葉を繰り返して嚙み締めたマミだったが、自分の周囲にいる僕らを認識して目を見開く。
当たり前か。僕×3人にしらない男だもんな。
「この世界の僕は、僕だよ。そしてこいつが魔法のある異世界から転移して戻ってきた僕、そしてその異世界からやってきた影の存在のシャドウ。そして転生者のテン」
これだけの説明でマミはすぐに状況を飲み込んでくれる。
「そっか、やっぱりもう来てたのね転生者。そしてそれ以外にも協力者がいたってわけか。盲点だったなぁ。魔法ってことはユズルさんに襲われそうになったときに助けてくれたのはあなたたちなのかな」
混乱もせず受け入れられるのは彼女も異世界を経験してるゆえにか。
「ああ、そうだぜ。俺のヒーローっぷりよかっただろ?」
「まあ、ね。ありがと」
鼻高々に自慢する”僕”に、マミがくすくすと笑って同意する。
彼女の笑顔になんだか顔を赤らめる”僕”は、僕に耳打ちをしてくる。
「な、なあマミってあんなに可愛かったか。もっとなんか怖い感じだった記憶があるんだが」
お前もか、と思うが、結局彼は僕とほとんど変わらないのだからしょうがない。
「彼女の条件は僕を攻略することだったらしい。だからそれを失った彼女は……なんというかちょっと自然で惹かれる」
「だよな」
大きくうなずく”僕”になんだか仲間意識を覚えるが、こいつは彼女がもとは自分だということを知らずに惹かれている分、僕より少しノーマルかもしれない。
「それで、好意ってどういうこと?」
僕たちの耳打ちが終わるのを待って、彼女が尋ねてくる。
「シャドウが新しくゲームに挑むことになって、君の魂の消滅は保留になったんだ」
ほうっと、後ろでテンが声を上げるのが聞こえる。
「保留なんてこと、あるのね。どうしたらそんなこと……」
説明する僕に、不思議そうなマミ。
そしてその彼女の言葉に被せるようにテンが言う。
「それはいいじゃないですか。シャドウ君、ゲームに挑むことになったのですよね。条件は?」
テンに言われて僕はそれを聞いていないことに気付く。
シャドウへの追求、テンへの疑いだけでいっぱいになっていた。
次を賭けてくれたシャドウのためにも僕は絶対にそれを達成させなければならない。
僕らに課された条件は、なんだ。
「シャドウ、君は神にどんな条件を出されたんだ?」
その言葉にシャドウは静かに応えてくれる。
「私の出された条件は、このゲームの参加者全員と、その元の姿を知ることです」
彼の言葉をそこにいた全員が噛み締める。
その難しさを。
大きすぎる条件を。
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