第35話 ゲームへの参加

目の前には光る何かの存在がいる。

これがみんなの言っている神なのだろうと推測するのは容易だった。


「君は神様なのかな。排除モードってなに?」


今までの経緯や、出してきた条件から目の前の存在を尊敬する気にはなれない。

僕はため口で話しかける。


「ボクを前にしても平気でいられるなんて、さっすが魂のオリジナルだね」


主役だとかオリジナルだとか持ち上げられても全くいい気分にならない。

僕は少しだけ周りに恵まれない、魔法も魔力も持たないただの人間でしかないのだから。


「御託はいいよ。排除モードで何をするかを僕は知りたいんだ」


「くくっ。言葉の通りだよ。条件を達成できなかった魂を消滅させるのさ」


神がパチンと指を鳴らすと、空中に光に包まれたマミと父さんが現れる。

二人は穏やかな顔で目を閉じている。

今から消されるとも知らずに。


「消滅ってどういうことだよ!」


「だって、次の転生をかけたゲームに二人は敗北したんだよ。負けたんなら消えるしかない。彼らは自分の魂をチップにゲームに挑んでたんだからね」


今にももう一度指を鳴らして二人を消そうとしている神に、僕はくってかかる。

ゲームへの参加はお詫びなんじゃなかったのか。失敗したからはい消しますなんて、そんな簡単に命を、魂を消滅させてなどいいわけがない。


「まだわからないじゃないか! マミだってもしかしたら」


「ああ、彼女の場合正確には諦めかな。ラブホテルで君と話した段階で彼女は諦めてたから敗北で消してもよかったんだけど、そのまま追放したらユズルの条件達成のためのチャンスが回ってこない。それはフェアじゃないだろう? だから一時的に世界に残しておいたけど、彼も失敗しちゃったからねぇ」


そう言って笑う神は、どう考えても性格が悪い。


「そんなこと許されるわけないじゃないか」


「許すも何もこの世界の法はボクさ。すべてはボクの裁量次第。キミもオリジナルとはいえ気を付けたほうがいいよ。それにキミだって二人のこと鬱陶しく思ってたんじゃない?」


確かにそう思っていた。父さんのこと、好きではない。

けれど消えてほしいとまでは思ってない。マミに対してだってそうだ。

僕はそれを口に出そうとして、飲み込む。

僕が相手にしているのは神だ。

きっと自分の面白いと思うことにしか興味を持たないに違いない。

神は基本的に理不尽なものだから。


「そのゲームってやつは、僕にも参加できるのか?」


だから僕は挑発的に見えるように計算しながら笑う。

さあ、ひっかかってくれよ。

僕にも何かできるって証明させてくれよ。


「キミ面白いこと言うね。他の世界に行ったことある人向けのゲームだっていうのに。キミなんかに参加権があると思うのかい?」


失念していた条件。

僕は転生なんてしたことない。

僕は異世界転生しなかった僕だ。

せめてここに”僕”がいれば、交渉出来たのだろうか。

僕には何も救えないのか。

……自分の無力さに拳を握りしめる。


「それは、私ならゲームに参加できるということですかね?」


その言葉に振り向くと、そこには少しだけ色彩の暗い僕。

この不思議な世界で実体化したらしいシャドウが立っていた。


「うーん、君かぁ。確かに異世界から今の世界に来てるから参加権はあるね」


「ゲームでかかっているのは次の転生、ということは合っていますか?」


「そうだね。一人分の転生をかけて勝負が出来る」


「それで十分ですよ。私はそれを頼みたいのです」


ふっと安心したように笑うシャドウ。

僕の頭はそれほど回っておらず、シャドウが導こうとしている回答にはたどり着けない。彼は何を考えている?


「君の言わんとしているところは大体わかったよ。普通みんなはそれを願わないから考えたことなんてなかったけど。そしておそらくそれは正しい、成功する可能性がある」


話がよくわからない方向に進んでいって僕は焦る。


「ちょっと待ってよ。シャドウは何を?」


僕の言葉に今度は少しだけ悲し気に笑って、シャドウが答える。


「ご主人様、本当はわかっているんじゃないですか? 誰の転生をかけたらより多くを救えるか」


過去、未来、現在。

その同一性のほどはわからない。

けれど、マミとそして条件がバッティングした場合救えなくなるテンの転生を守るために望むべき、転生させる魂とは。

僕がゲームに参加できないと聞いた時点ですぐに捨てた可能性を、シャドウは拾っていた。

でもそれは、僕の中での私欲を満たすための方法も兼ねているという前提での話だ。


「本当にいいんだね? それは自分の転生を捨て、魂を輪廻の輪から外すってことだよ」


「はい」


君が次をすべて捨てて取り組むべき事柄ではない。

シャドウ、やめるんだ。


「すみません、ゲームに負けたらご主人様の転生もぱあになってしまいますが、全力で頑張るので許してくださいね」


「駄目だ!」


僕の制止は二人には届かない。

そしてシャドウは神の前で宣言してしまった。


「私、シャドウは自らの魂を賭け、カナメさんの次の転生をかけたゲームに挑みます」


神が遠くで声を上げて笑っている。

なんて悪趣味なんだ、本当に。

そして僕の意識は、刈り取られた。

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