第31話 告白後の事件
「しょ、処女? でもあの時……」
僕が言おうとしたところで、彼女の人差し指で口を塞がれる。
「あなたは、本当に全部見たの? 私が破瓜の痛みに苦しむところも?」
そう言われてみて思い出す。
彼女のパーツは隅々まで見た。そう本当に隅々までだ。
ということは逆に考えれば、彼女を隠すものは何もなかったというわけだ。
僕は絡みつく体たちに気を取られすぎていたし、あのころ、知識がなかった。
どうすればそういう行為なのか。
だから知った後に、その記憶は、補填されていった。
確かに二人は交わっていたのだと、そういう方向に。
正確に思い出してみると、僕は、その瞬間を、見ていない。
「ね? 見てないでしょ? もしも、私がユズルさんを溺れるほど好きだったとしても、ゲームを捨ててまでそういうことすると思う? というかもし仮にそうしてゲームを諦めたのなら、あなたに近づく必要なんてないでしょ」
マミの言うことはもっともだった。必要があるはずがない。
「彼はゲームにおいていい共犯者だったのよ。目的も両立できたしね。だから関係を結んだ。私は男を感じさせるテクニックを得るために彼と最後の一線を超えない範囲でそういうことをしてた。理由はもう体験したでしょ?」
「最終手段、無理やりするときに勝率をあげるため?」
「ご名答。まああなたには全く効果なかったから骨折り損のくたびれもうけってやつね。体の捧げ損よ」
そう言って笑うマミはなんだかすっきりして見えて、少しだけ魅力的にうつる。
予想外の自分の気持ちに戸惑いながらも、僕は一つの考えにたどり着く。
テンは、本当に、僕らの味方なのだろうか。
彼は自分がマミたちと対立していると言っていたが、マミの条件はテンのそれを侵さずに達成することが可能だ。ではなぜ、彼は明確に対立すると言った?
彼女の条件を知らなくて、自分の条件内で対立する相手をそう言っただけの可能性はあるにはある。
でもそうなると、前の世界ではマミの条件は暴かれなかったことになる。そんなことありえるのだろうか。
あのテンがそんな不確定な情報で僕を振り回すとも、思えない。
それならば、僕をたきつけるためにそう言ったという方がよっぽど信憑性が高いように思える。
考えれば考えるほど、テンへの信頼が落ちていった。
「そうだ、あなたのお父さんの条件、教えてあげようか?」
考え込んでいるところに唐突に言われたものだから、僕はなんだか慌ててせき込んでしまう。ちょっと待ってくれ。共犯者の秘密、そんなに簡単に漏らしちゃっていいのか。
「ちょっとちょっと、大丈夫? はい、これ、お水」
マミがホテルの冷蔵庫からミネラルウォーターを出して手渡してくれる。
知らないうちにかなり喉が渇いていたようで、僕はそれを一気飲みした。
乾きが解消され、のどの苦しさが癒える。
「そんな簡単にそういうの言っちゃっていいわけ?」
僕の言葉にマミはくすりと笑う。かわいい。
「乙女の体を好き勝手にした罰よ。一線は超えないけど結構えげつないことされたからね。捧げ損だったんだから、これくらい漏らしちゃっていいでしょ」
「いいのかな」
「いいの! 私の体のことよ、私が決める。えっとね、あなたのお父さんの条件はね」
そこでちょっとだけ溜めを入れて僕の反応を見てくる。
マミは、自然体だとこんなにかわいいのか、モテるわけだ。
「あなたのことを、心の底から絶望させることよ」
じゃじゃーんと口で効果音を後付けしてそれを発表するマミ。
彼女の口から随分と抽象的な条件が出てきて僕は少し驚いた。
隠し通す、処女を捧げると来て、その条件はなかなかに判断が難しくないかと。
「心から絶望してるかどうかは、誰が決めるんだ?」
「さあ、神様じゃない?」
教えてくれたマミは、そこには興味なさそうに自分もミネラルウォーターを飲んでいた。その秘密を言うことに、体を遊ばれたことに対するちょっとした復讐ということ以上の意味は、彼女にはないのだろう。
でも僕にとってはそうじゃない。
条件によってシャドウ達を隠す難易度も変わってくるし、それが対立しているか、そしてどこまで情報を握っているかで今後の動きは変わってくる。
マミについては僕だけに関わる条件だったが、複数人に関わる条件なら、僕一人で御しきるのは限界があるかもしれない。
この条件は、果たして真実なのだろうか。
「最高の状態で計画が進行したら、あなたは私に心の底から惚れてるでしょ。で、私にべた褒めなあなたに、ユズルさんと私が愛し合っているところを見せて、絶望を感じさせる予定だったのよ」
ああ、それで予行演習として関係を持っていたのね、とその補足で一部は納得する。
でも僕が、この性格の僕がそうやすやすと、幼馴染を好きになるなんて、あの父さんが予想するだろうか。
そして、この間、あのタイミングで転生の話をしてきたのも気になる。
父さんはマミ以上に、何かを知っていて、そして隠しているのではないか。
「父さんは……」
「あーもう、ユズルさんの話はもうおしまい。私も思い出したくないこと多いんだから。さ、課題やらなきゃなんでしょ、そろそろ帰りましょ」
そう言って脱いだ服を着始めるマミ。
それを見て、今日を乗り切ったことを僕は改めて感じる。
そして終わり次いでに僕は一つ、気になっていることを尋ねることにした。
「君はゲームの前は、誰だったんだ?」
その言葉に、マミはふっと笑って答える。
「まだわかってなかったのね……」
マミの笑顔がそこで固まる。そして、横に向かって落ちていった。
体が、傾いている。
何事かと手を伸ばそうとした僕の体も、動かない。
「あなた、よ」
倒れながら発するマミの言葉を最後に、僕の意識もぷっつりと途切れた。
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