第25話 世界の異物
「つまり、彼は異物として世界から排除されたと。だから、神からなんの説明もなかった。そういうことですか?」
内容を理解したシャドウが尋ねる。
自分が帰れないかもしれないと言われているのと近いのに、随分と落ち着いた様子だ。
「そうだ。おそらく、彼は転移先の世界で異物と認識されてしまったんだ。そうでなければたった2年で説明もなく、世界からはじき出されるとは考えられない」
「なるほど」
なんというか、その情報は僕にとってもつらいことだった。
それはつまり、”僕”を異世界に帰すこと、追い払うことが出来ないということではないか。
「じゃあ、彼は一生この世界に?」
僕の困ったような問いかけを聞いて、彼も過去の自分の気持ちを思い出したのか、少し慌てたように回答してくれる。
「違うよ、違う。彼にはこの世界から出るという選択肢がまだある。つまり、もう一度転生もしくは転移しなおすという選択肢だ。それには私のゲームに協力してもらうのが手っ取り早い」
その回答に少し安堵する。
僕の日常は、まあ嫌な日常ではあるが、戻ってくるらしい。
一息ついて、次の疑問を解決にかかる。
「さっきから言ってるゲームって何なんですか?」
「おっと、それを答えるには、また異世界転移した彼を呼んできてからのほうがよさそうだ。私が呼んでくるから少し待っててくれないか」
そう言って彼が席を立って、”僕”を呼びに行く。
出ていった彼を見送った後、僕は隣でうつむくシャドウに声をかける。
「シャドウ、君は誰かの影でしかいられないって言っていたよね。つまり……」
僕は思ったことを言ってしまってから、後悔する。
なんてことを言っているんだ僕は、傷口に塩を塗っているじゃないか。
けれど僕の問いかけに、シャドウはかげりのない笑顔を浮かべ、でもその後ちょっとだけ心配そうな顔をして、尋ねてきた。
「そうですね。元のご主人様があの世界に帰れないのなら、私が帰る術はありません。でもいいんです。私はあの世界が好きだったわけではないですから。……ご主人様、影として、私がおそばにいることをお許しいただけませんか?」
シャドウにそんな顔をされては、僕の心も痛くなる。
僕は安心させるために彼の手を握って、その問いに答えた。
「もちろん、君なら大歓迎だよ」
自分と似た思考の持ち主なんて、なかなかいない。
それに彼はこちらの世界に来てから一度だって僕に迷惑をかけていない。
安心できる相手、断る理由なんてなかった。
僕とシャドウが今後を誓い合って(?)しばらくして、彼と”僕”が戻ってきた。
やけに遅いなと思っていたら、どうやら”僕”がトイレに入っていたらしい。
まあ、異世界転移した自分だってトイレに行くよな。
「ゲームの話を、教えてください」
全員がテーブルに着いた後、僕が彼に尋ねる。
すると彼はどう要約したものかとうーんとうなってから話し始めた。
「そうだな。私が言っているゲームっていうのは、異世界転生や転移をしたことのある者を対象に行われるものなんだ。そして、そのゲームに勝つと、なんでも一つ、まあ、神が出来る範囲のものに限るが、願いをかなえてもらえることになってる」
「おい、神様にできないことなんてあるのか?」
当然の疑問を”僕”が呈するが、僕とシャドウには彼がつけた注釈の意味がわかった。
どうやら神でも異世界に異物認定された魂を、その世界にもう一度入れることはできないらしい。
僕達の理解を見て、当然のように”僕”の質問を無視して、彼は続けた。
「私はゲームに勝って新しい世界に、記憶を消して転生したいと望んでいる」
なるほど、それが彼の望みか。
案外素直に言ったので、僕は驚いて、尋ねる。
「どうして、あなたは記憶を消しての転生を望むのですか?」
その言葉に彼は苦笑した。
「私は前回転移ではなく、転生したんだ。それも、君の人生もそれなりに生きた後にね。そして、転生先でも長い長い時間を過ごした。私は二つ分の人生の記憶を持っている。私の頭には重すぎる。喜びはまだいい。悲しみや、怒りはもう正直リセットしたいんだ。もう繰り返したくない」
繰り返したくない。
そう言う彼の言葉は真に迫っていて、僕はそれが彼の本心であると判断する。
だから彼の望みに関しての追及はやめることにした。
僕が知りたいのはそのゲームの内容だ。
「それで、ゲームってどんな内容なんですか?」
「人によってクリア条件は違う。だから、挑戦者の間に対立関係が絶対にあるわけではないんだ。でも私の場合は、明確に対立する相手がいる」
「その相手って、もしかして……」
そう、会話が最初に言っていた目的に、つながった。
「そう、マミ。そして私たちの両親だ」
僕はその回答に息をのむ。
「あなたの条件は、何なのですか?」
シャドウが尋ねる。
「私の条件は、一定期間、シャドウ君たち、そして私自身の存在を彼らに悟らせないこと」
「じゃあ、僕たちに接触するのは危なかったんじゃ」
「まあ、そうなんだけどね。その一定期間っていうのが始まるのがカナメ君と会った日から数えられる指定なんだ。ひどい話だろ?」
僕の言葉に彼は頭をかきながら答える。
自分でもそんなリスキーなことしたくなかったんだというように。
僕は彼の言葉を吟味する。
彼の条件を信じ、飲んだとして、僕にとって不利益があるかどうかを。
それに監視などの何らかの方法で彼がすべてを知っているだけで、本当は未来の異世界転移した僕ではないという可能性もまだある。
「もう一度言う。私は未来の君だよ、カナメ君。幼馴染のトラウマも、それが今日深まったってことも知っているさ」
僕の思考を知っているかのようなその言葉。
そして僕の秘密と今日の出来事。
オーケー、とりあえず後者は置いておくことにしよう。
一応は信じよう、未来の僕と。
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