第24話 彼の目的

自分のもとにやってきた人間に目的を尋ねる。

それは至極真っ当なことだったが、この場合、彼が正直に答える可能性はあまり高くないことはわかっているそのうえでの質問。

何かをたくらむ人間はたいていの場合、それを隠匿する。

そのほうが自分が行動しやすくなるから。

彼の望みは、たくらみは一体何だろうか。


「私の目的は、異世界転移してきたあなたたちの存在をマミや、あなたの両親から隠すことです」


「それになんの意味があるんですか?」


ほぼノータイムで僕の質問に答えてきた彼に、もう一度質問を返す。

彼の話しているのは、彼の現時点でとりたい行動であって、最終目的ではない。彼の望みではないからだ。

僕の問いを予測していたのか、彼は微笑んで次の言葉を返してくる。


「私たちはゲームをさせられているのですよ」


彼が返してきた言葉は、なかなかに予想外なものだった。

ゲーム、とは何だろうか。

させられている、誰に?

何の理解も思考の進展も得られないその回答に僕の脳内は詰まってしまう。


けれど僕と同じ思考回路を持ったようなシャドウは、彼なりの経験を生かして、その推論にたどり着く。


「もしかして、神、にですか」


「ご名答」


シャドウの答えに、ご満悦な笑みを浮かべる彼。

そう、シャドウは”僕”の影でいたときに、神に会っている。

だから神を知っている。

これがその存在を目の当たりにしたことのあるものとないものの差か、僕は神がゲームをさせているという言葉に全くぴんと来なかった。

どういうことなのだ、それは。


「神はいたずら好きなんです。だから私たちに、次の転生をかけてこの世界で勝負をさせている」


「次の転生」


僕は彼の言葉を繰り返す。

僕にはぴんと来ないその言葉。

だって僕には、そんな経験がないのだから。

なぜか、それを聞いていて、僕には彼らに対する羨ましさが浮かんだ。


どうしてなんだ。

分岐し、異世界に旅立っていくぼくたち。

けれど、僕は変わらずここにいて、ここにいる僕自身はただ平凡な日常を暮らしている。

なぜ、僕は転生できない?

なぜ、僕は異世界で楽しめない?

なぜ、僕の人生には何も起こってくれないんだ。


そんな思考をぐるぐるとしている僕の肩をぽんっと彼がたたく。


「思いつめちゃ駄目さ、まだ君は僕になる可能性もあるのだから」


その言葉で僕の心がぱっと明るくなる。

そうだ、彼は、僕がこれからたどる道の一つの可能性。

だったら、悲観することはない。

このまま、日々を過ごしていけばいつか!


待て。

このまま未来が変わってしまったら、この彼は生まれなくなるのではないか?

僕はその思考に行きついてハッとする。

僕が彼と同じ道を辿らなかったら、未来の分岐そのものはなくなる可能性がある。

それは避けなければならない。この日常を永遠に続けていくなんてまっぴらごめんだ。

けれどもう未来は知りたくない、そう言ってしまった。

どうすればこの先、過去と同様のルートを辿っていけるのだろうか。

僕は必死に考えたが、妙案は浮かばなかった。

彼のすきを見て、未来を聞き出すしかない。

だから僕は、この世界を変えないという決意を隠すことにする。

もっとも、僕を経験したことのある目の前の彼には、そんなことお見通しなのかもしれないが。


「それで、ゲームってどういうこと?」


とりあえず話を進めることにした。

僕にはちんぷんかんぷんの神のゲームについて知らねばならない。


「そもそも、どうして君たちは異世界からこちらの世界に戻ってくることになったんですか?」


その問いに、彼はすぐに応えようとしてなぜか”僕”のほうを見て、言葉を止める。


「すみません、異世界転移してきた私にはこの話を聞かれたくないのですが」


僕はその言葉で、ちらりと”僕”を見る。

僕とシャドウと彼、三人からの視線の圧力に耐えかねたのか、”僕”はやれやれと言った様子で立ち上がった。


「わかったよ、俺は席を外すよ」


静かに席を立っていく彼を見送って、


「本当はシャドウ君にも伝えたくないのですが、君はカナメ君の影ですからね。今隠したってどうせ伝わってしまいます。もしかしたらつらい話になるかもしれませんが、いいですか」


「はい、構いません」


彼の言葉に、シャドウはごくりと唾をのんでから答える。

そのやりとりで、僕はそれから述べられるのがどんなことであるか、大体察しが付く。つまり、それはルールのようなものではないかと。


「異世界転移や、転生をした場合において、元の世界に戻る理由というのが大まかにわけて二つ考えられます。まずは一つ目、本人が望んだ場合。帰還を望んだ場合、それが叶えられる可能性がある」


「あなたはその場合なんですか?」


僕が尋ねると、彼は静かに首を縦に振った。


「そうとも言えます。でも、私の場合は少し特殊で、先ほどの神からのゲームにも関係する内容です。少しおいておきましょう。次に話すのが、おそらく今いなくなってもらった彼のパターンです。それは」


「それは?」


言葉を促すシャドウと僕の声が重なって一つの声となる。


「その世界で魂が異物として認識されてしまった場合」


それは、父さんが話していたことと一致する内容だった。


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