第26話過ち

「じゃあ、須藤先生よろしくお願いします。」

「はい」

私は、玉井先生から渡された資料を持ち職員室を出た。

階段を降りていくと、下の方から声が聞こえた。

「円花!」

そこには大声で叫ぶ、晋一君がいた。

「晋一君…?」

晋一君は立ち尽くしていたまま、

動かなかった。

「三田倉さんと何かあったのかしら?」

私は晋一君の元へ駆け寄った。

カッカッカッ

「晋一君!もうすぐ講義の時間でしょ?何してるの?」

「…別に、関係ないだろ。」

「三田倉さんと何かあったの?」

私が聞いたその瞬間、

晋一君が一気に不機嫌になった。

「関係ねえっつてんじゃん。

これは俺と円花の問題だから」

そう言って晋一君は、帰って行った。

その時

ザーザーザー

窓から雨が降ってきた。

ゴロゴロゴロ

そして雷がなった。

私はあの、雨の日の雷の午後を思い出した…。

❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈

晋一君と出会ったのは私が22歳の時、

その時、晋一君は17歳で高校2年生だった。

当時私は、秀一とは大学で同じサークル仲間だった。

帰る方向が一緒で、よく一緒に帰っていた。

そしてしばらくして、

私達は付き合うようになった。

付き合っていた頃は、よく秀一の家に寄っていた。

ある日、秀一の両親は実家で帰省していた。その時私は、秀一の家に泊まっていた。

「もうすぐご飯出来るよ!」

「楽しみだなー清羅の手料理!早く食べたいなー!」

「もうちょっと待ってて♡砂糖借りるねー!」

私はそう言って、引き戸を開けた。

「あ!」

「どうした?」

「砂糖足りない…。」

「あ、じゃあ俺買ってくるよ!」

「ごめんね、秀一…。」

「いいよ、じゃあ行ってくるわ!」

そう言って秀一は、砂糖を買いに外へ出た。

秀一が出て行った後、

私はご飯の支度をしていた。

その時

ガチャ

扉が開く音がした。

「…誰だろ?」

そして足音が近づいて来た。

「…誰?」

その時制服を着た男の子が立ち尽くし、私を見ていた。

「あ、えと…初めまして!私は秀一さんとお付き合いさせて頂いてます!

小川清羅です!」

「…ども。弟の晋一です。」

「晋一君かあー!よろしくね!」

「…よろしく。」

晋一君との出会いは、これが最初だった。

あれから私達は、よく三人で行動するようになった。

ある雨の日

大学が終わり、外を出ると雨がすごく降っていた。

ザーザーザー

「うわ…!すごい雨!どうしよう…。傘忘れたし…。でもバス乗らないと…」

そして私は、仕方なくバス停まで走った。

バシャバシャバシャ

そしてバス停に着いた。

しばらく待っていたその時

バスが来た。

バスに乗った途端、

車内の中からクスクスと笑い声がした。

(なんだろ…?私…何か変かな?)

自分の見ると雨で、ブラウスが透けていた。

(恥ずかしい!)

私は、とっさにバッグで隠した。

(早く降りたい……。)

その時、後ろから肩をポンっと叩かれた。

振り向くと

「清羅さん?」

晋一君がイヤホンをしながら立っていた。

「晋一君!」

「どうしたの?びしょ濡れじゃん」

「あ、傘忘れて…。」

「そうなんだ」

「次は○○町〜」

バスのアナウンスが聞こえた。

その時晋一君はボタンを押し、

制服のジャケットを脱いで、

私に掛けてくれた。

「降りよう」

「え?」

晋一君はそう言って、私の手首を引っ張った。

そして私達は、バスを降りた。

プシュー

「あの?晋一君?」

「そんなビショビショじゃ風邪ひくでしょ?ウチ来なよ」

「え?でも…」

「ほら、行くよ」

晋一君に引っ張られ、

私達は、須藤家に向かった。

「入って」

「お邪魔…します…。」

リビングには、誰もいなかった。

(晋一君と二人きり…。)

須藤家には何度も来ているし、

慣れているのに

なぜか緊張が止まらなかった。

「これ、着替え…。

ブラウスとスカートは乾燥機にかけるから、風呂場の籠に置いといて。」

「ありがとう、お借りします…。」

私は着替えを持って、脱衣所に向かった。

「晋一君、優しいな…。」

私は借りた服に着替え、脱衣所を出た。

リビングに入ったその時、

飾ってある写真を晋一君はずっと見ていた。

すごく…優しい目をしていた。

「着替えありがとう、晋一君」

「あ、ああ」

「その写真、晋一君だよね?」

「うん」

その時私は真ん中に写った女の子が気になった。

「この女の子は?」

「幼なじみ。円花って言うんだ。

…引っ越したけど。」

そう言った後、晋一君の目は悲しい目をしていた。

(この子の事…、大事だったんだね…。)

私は、チクンと胸が痛くなった。

(あれ?何か…痛い…なんで?)

私はその後、晋一君のあの悲しい目が忘れられなかった。

あれから、秀一とはよく喧嘩をするようになってしまった。

私が…晋一君を気になってしまうようになったからだ…。

ある日私は午後の雨の日、

大学の帰りのバスで、晋一君にまた会ってしまった。

「なあ…最近ウチ来ないけどどうかした?」

「ちょっと…秀一と喧嘩し続けてて…。」

私はその時、晋一君の目が見れなかった。

「ふーん…。あのさ、

兄貴、あんたの事スゲー心配してたからさ、連絡してあげて下さい。

それにあんたも兄貴の事好きだろ?

兄貴良い人だしさ。」

晋一君は、私より全然大人だ。

だけど…。

今の私には晋一君に言われると辛い

「ちゃんと話し合った方が良いと思う。」

「…そうだよね。」

「家で待っていれば?」

「うん、そうしようかな…」

そして私は、秀一と話し合うために須藤家に向かった。

「多分、夜には来るから待ってみたら?お茶淹れるから」

晋一君はそう言って、キッチンに向かった。

だけど私は…

晋一君と二人で今一緒にいる事が、嬉しかった…。

私、秀一がいるのに最低だ…。

コポポポ

お茶を淹れる音が聞こえた。

晋一君は、お茶を持って机に置いた。

「はい」

「ありがとう」

お茶を受け取り、

私達はソファに座って飲んだ。

一気に気持ちが、落ち着いた。

でも、この二人だけの空間にまだドキドキしてしまう…。

秀一と喧嘩をしてしまう時も、

晋一君の事を考えてしまう…。

あの日私は、写真の円花さんを見つめる晋一君の目が忘れられなかった。

円花さんが、心から羨ましいと思った。

あんなふうに愛されて…

いいなあ…と思った。

そして…今、自分の気持ちに気づいた。

《今、この瞬間を私だけの物にしたい…。

晋一君を…。独り占めしたい…。

この時間だけで良いから…。》

神様…。一度だけ…。一度だけで良いから…。

彼を…、独り占めさせて下さい…。

一度だけの過ちを…許して下さい…。

私は晋一君にキスをした。

ガシャーン!

「!?何やってんだよ!兄貴いるだろ!」

晋一君はびっくりしていた。

「晋一君が好きなの!」

「え?」

「私…最近秀一とよく喧嘩してしまっていた。

でもそれは私のせいなの!

私が…晋一君の事好きだから!」

「…俺は清羅さんの気持ちには応えられない」

「分かってる!それでもいいの…!

…晋一君は、円花さんが好きなんでしょ?」

「…。」

「ずっと寂しいんでしょ…!?

晋一君の目見てたら分かるよ!」

「…っ!」

「…円花さんの事好きなままで良いから!

だから…私のこと利用して…?

私を…円花さんの変わりと思って良いから…。

だからお願い…!」

そして私は、もう一度晋一君にキスをした。

「んっ…」

それに応えるように、晋一君がさらに追い込んできた。

ガタン

「んっ…ハァっ…」

私は、晋一君の背中に、腕を回した。

カツン…。

「…っハァ…っ清…羅さん…」

そして服に、手が入った。

晋一君が、私の身体に触れてる…。

「あっ…!ハァ…っ」

私達今…繋がってる…。

それだけで幸せ…。

そしてあの後、私と秀一は仲直りをした。

そして…、結婚もした。

だけど…。

❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈

今でもまだ、雨の降る午後を見ると思い出す。

晋一君触られてた指、キスをした唇、

体温、ゴツゴツした身体

私は晋一君と一度、“過ち“を犯した。

一度だけで良い…。

一度だけで良いから…。

私はあの時、その気持ちしかなかった…。

悪いことをしたのは、分かってる。

だけど…私の身体には全部…

晋一君と繋がった、

あの感覚が今でもしっかりと残っている…。

私はそのせいで、

結婚した今でも、

晋一君を忘れられずにいた…。

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