第25話溝

チュンチュンチュン


鳥の鳴き声が聞こえた。


「もう…朝か…。」


あれから私は、あの事があってから一睡も出来なかった。


トントントン


階段を降りると、包丁の音が聞こえた。


お母さんが、降りてきた私に気づいた。


「あら、円花早いわね。おはよう。」


「…おはよ」


私は何となく、お母さんの顔が見れなかった。


パシャパシャパシャ


洗面所に行き、顔を洗った。


机には、既に朝食が並べられていた。


「…頂きます」


私は朝食を食べた。


だけどあまり、食べる気に慣れなかった。


「…ごちそうさまでした。」


「あら、もういいの?」


「…うん、ごめんね」


そして洗面所に行き、支度をした。


鏡で自分の顔を見ると、


…疲れた顔をしていた。


「ひどい顔…」


メイクも、いつもより力が入らなかった。


「…行ってきます」


「行ってらっしゃい。」


お母さんは、不思議そうに私を見ていた。


だけど今は話したくない…。


晋ちゃんに会うのが気まずいと感じた私は、

早めに家を出た。


一人で歩く通学路は、すごく長く感じた。


いつもは晋ちゃんと話しながら歩いているから、すぐに大学に着いていた。


隣に晋ちゃんがいないっていうだけで、


すごく長く歩いている感じがした。


「…晋ちゃんといるとあっとゆうまに着くもんね…。」


だけど今はまだ、


晋ちゃんと顔を合わせる余裕が私にはなかった…。


私はふと、昨日の事を思い出した。


昨日の晋ちゃんは、まるで別人のようだった。


あんな顔をした晋ちゃんなんて知らない…。


しばらくして、大学に着いた。


ゼミのに向かうとまだ、少しの人しかいなかった。


「あれ?三田倉さん、今日早いね!」 


その時同じゼミの女の子が声を掛けてきた。


「あ、うんちょっと…。」


「そうなんだ!」


「うん」


私はその後席に着き、机に顔を伏せた。 


しばらくしてから声がした。


「…円花?」


顔を上げると、美菜がバックを持って私の前に立っていた。


「美菜、おはよ…。」


「どうしたの?今日早いね。」


「たまには早く来ようと思って!」


私は、美菜に心配かけさせないよう元気にふるまった。


「そうなの?」


「うん」


その時、美菜の首からネックレスが見えた。


(この前はあんなネックレス…してなかったよね?)


「そのネックレスかわいいね、どうしたの?」


「この前ね、彼氏と一緒にショッピングした時に貰ったの。」


そう言って美菜は、ネックレスのリングをギュッと握りしめた。


「そうなんだ、いいなあー!羨ましいー!」


「ありがとう…。」


美菜は幸せそうだった。


だけど…


それにしては少し、元気がなかった気がした。


(美菜…?)


「円花あのね、私…」


「ん?」


美菜が何か言いかけようとしていたその時、


「おっはよ~二人ともー!」


舞由香と盟加が入ってきた。


「おはよー」


「おはよう」


「あ、美菜何?」


「あ、ううん何でもないの」


その時舞由香が、美菜のネックレスに気づいた。


「あ、美菜!そのネックレスかわいい〜!」


「ありがとう」


「彼氏からのプレゼント〜?」


「うん」


(さっき美菜が言いかけていた事何だったんだろう?…)


その時


「円花!」


ゼミのドアの前で、私を呼ぶ声が聞こえた。


振り返ると、汗だくで息を切らし晋ちゃんが立っていた。


晋ちゃんは、ゼミの中に入ってきた。


周りの皆が、ザワザワし始めた。


「え、何事?」


「あれって、2年の須藤先輩だよね!」


「晋ちゃん…。こんな所まで来ないで。」


「円花、何で先に行くんだよ…」


「…皆、見てるから…。」


「俺の事嫌いになったのか?」


「…とりあえず、他の場所で話そ?」


そして私達はゼミを出て、人目のつかない非常階段に向かった。


窓から吹く風は気持ち良いのに、


私達のいる空気は、すごく重かった。


「…何で先に行くんだよ。」


「…ごめんなさい。」


「俺の事嫌いになったのか?」


「…違う!けど…昨日の事を思い出すと、

晋ちゃんと顔を合わせるのが気まずかった…。」


「円花、昨日は本当にごめん…。」


そう言って晋ちゃんは、頭を下げた。


「…どうしてあんな事したの…?」


「…円花が嘘をついたから、井上に触られてるし

誰にも触られて欲しくなかったのに…。」


「…ごめんなさい。黙っていて…。」


「何で言ってくれなかったんだよ、井上の事」


「…晋ちゃんに心配かけさしたくなくて…。」


「…何だよそれ、俺の事信用してくれてねえの?」


「ち、違う!」


私は、首を横にふった。


「…円花にとって俺って何?ただの幼なじみか?」


「違うよ!彼氏だよ!」


「彼氏彼女なら何でも話し合うもんだろ?

後、何で俺との約束も守ってくれねえの?

俺、言ったよな?

連絡は必ずしろって」


「…ごめんなさい」


(だけど私だって、休みたい時がある…。

分かって欲しい…。)


だんだんイライラしてしまったその時、


言いたくない言葉を私は言ってしまった。


「私だって休みたい時もあるの。

晋ちゃんこの前からおかしいよ…。

いきなりお昼これから一緒に食べようって言ってきたり、街ですれ違う男性と目が合っただけで怒ったり、それに…今までなら私の服装に指摘なんてしなかった。

カラオケ行った時だって、私に一度も聞いてくれなかった。」


最近の晋ちゃんはおかしくて


嬉しいって思っていた言葉が


全部支配されているように聞こえてた。


だけど今の晋ちゃんには、何を話しても無駄だった。


「…これからは、常に俺といて。

井上や…兄貴とは会うな。」


「…何でそんな事言うの?さ

井上さんはバイト仲間だし、

秀兄ちゃんは、家族みたいに今まで一緒に過ごして来たんだよ?」


「本来の家族じゃないだろ。

円花は俺達の事、本当の兄貴みたいに見てる見たいだけど兄貴は違う。

円花を違う形で見てる」


(え…どうゆう事…?)

「なあ、円花

頼むからもう、俺以外の人と関わらないで欲しい。

俺以外の人と連絡も取らないで。」

(そんなの無理だよ…。)

その時晋ちゃんが、私を抱きしめた。

「俺はいつだって、お前しかいらない。」

「晋ちゃん」

しばらくして晋ちゃんは、身体を離した。

「円花もうお願いだから、バイトもやめて俺と一緒にいよ?な?円花」

そう言って、キスをしようとしてきた。

「嫌!」

私は、晋ちゃんの身体を押した。

「ごめんなさい私…

今の晋ちゃんとは怖くて、

一緒にいられない…。

ごめんなさい…。」

私はそう告げ、非常階段を上がった。

「円花!」

私と晋ちゃんの二人の間には、

いつのまにか

暗く深い“溝"が出来ていた

私はどこかで晋ちゃんに対し、

気持ちが少し離れていたのかもしれない…。

晋ちゃんの、私に対しての愛情が

いつのまにか苦痛になってしまっていた…。




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