第24話波乱

ガサガサガサ


晋ちゃんが包装紙を開けた。


「………」


その時、晋ちゃんの手の動きが止まった。


(晋ちゃんどうしたんだろう?プレゼント気に入らないのかな?)


「晋ちゃん?」


「…これ結構高いんだぞ…。どうしたんだよ。」


その時、晋ちゃんの声が少し低くなった。


「あ…えと…。実は、ずっと黙っていたんだけど…。

私ずっと、アルバイトをしていて…。」


「…この前の雨の日、一緒に相合傘してた井上って男と同じバイト?」


(えっ…!?)


「な、何でそれを知って…。」


「あの雨の日、俺、円花の家までの道を歩いてた。その時、近くで井上と歩いている所を見た。」


(見られてたんだ…!)


私はとっさに謝った。


「ご、ごめんなさい!ずっと黙ってて! 


本当はお母さんが、誕生日プレゼントのお金出すって言ってくれたんだけど…。


私が自分のお金で稼いで、プレゼントあげたいって言ったの!


井上さんは同じバイト先で、私の教育係をしてくれていて…。


あの日は井上さんが傘を忘れていて、 


最初折りたたみ貸すって私が言ったんだけど、


断られて…。


だけど雨は止みそうにないし、


井上さんには色々お世話になったから…。


それに風邪でもひかれたら…。


と思うと心配で放っておけなくて…。


そしたら、折りたたみ傘じゃ収まらないくらいどんどん雨が降ってきて…。


だから私から一緒に入りましょうって言ったの…。


そしたらお礼で送るって言ってくれたから…。


だからあの日だけ、一緒に帰っただけなの!


…黙ってて本当にごめんなさい!」


「…そうだったんだ。

そんな理由があるなら仕方ないな。

俺の為に色々頑張ってくれてたんだな…。

ありがとう。」


そう言って晋ちゃんは、許してくれた。


「…黙ってて、本当にごめんなさい…。」 


「いいよ。…俺実はその後、井上に会ったんだ」


(え?)


「円花を送った後、井上がすっごい速さでこっちに戻って来て、俺は思わず呼び止めた。…円花の浮気相手だと思ってたから。」


「そうだったんだ…。」


「井上から全部、話は聞いた。」


「そっか…」


「……あのさ」


その時晋ちゃんは…少し間を空け、口を開いた。


「…井上は円花の事、好きだと思う。」


「…井上さんが私を…?」


だけどそんなふうには見えなかった。


でも、初めてキスをされたあの日、


いつもと違っていた。


明らかに井上さんの様子が変だった。


「なあ、円花。…井上には、何もされてないよな?」


晋ちゃんがじっと、私の目をまっすぐ見た。


私は、心臓がドキドキした。


「な、な何もされてないよ?」


思わず動揺し、キョドってしまった。


「…嘘、下手だな。」


その時々晋ちゃんが、ソファに私を押し倒した。


ドサ


「!?晋ちゃん!?」


「円花は…俺の物だ。」


そう言って怖い目をして、キスをした。


さっきの優しい、あの時のキスとは違う。


激しい…。乱暴なキス…。


「ん…!」


しばらくして、晋ちゃんの舌が入った。


クチュ…。


(やっ…!ふっ…!)


息が出来ない!


嫌…


プチプチプチ


そしてそのまま、胸ボタンを外されていく。


「やっ…」


(やめて…!)


私は、《あの時》の事を思い出してしまった。


そして思わず、


「井上さん!やめてください!」


…叫んでしまった。


すると晋ちゃんの、手の動きが止まった。


「…やっぱりあいつに何かされたんだな。」


(しまった!)


「何で嘘つくんだよ!!」


「…ごめんなさい!ごめんなさい…!」


「嫌だ、許さない。」


その時スカートに手が入った。


「やめて晋ちゃん!晋ちゃん!」


晋ちゃんが私の下着を降ろそうとしていた。


「や、やだ…!やめて…!」


「やめない」


こんなの嫌だ…。


私は涙を、ポロポロ流した。


「…ひっく…」


そして晋ちゃんの手を止まった。


「…ごめん。俺、帰って頭冷やす…。」


晋ちゃんはそう言って、プレゼントを持って出ていった。


バタン


「うっ…。ひっく…。」


どうして…?何で…こうなるの…?


**********************************************

【晋一side】

バタン


俺は円花の家を出て、自分の実家に帰った。


ガチャ


そして家の壁の背にもたれた。


「何やってんだ俺…。最低だ…。

…円花を泣かせた。」


バイトを俺の為にしてくれたのは、スゲェ嬉しかった。


円花の優しさが伝わった。


初めて井上に会った時、


円花に好対して意を持っていた事はすぐに分かった。


井上に、何もされてないことを信じたかった。


…だから俺は賭けに出た。


「何もされてないよな…?」


お願いだから、何もないって言ってくれ。


だけど円花は…嘘が、下手だった。


分かった瞬間


…嫌だった。


井上が、円花に触れていたことが…。


円花に触れて良いのは、…俺だけなのに。


俺はその時一気に不安になった。


ひょっとして俺が知らない間に、


円花が井上と浮気していたらなんて…。


嫌な考えが出てしまった。


だから円花は俺の物と分からすように、


とっさにあんな事をしてしまった…。


だけど円花を泣かせてしまった…。


自分が、ここまで独占欲が強かったと思わなかった…。


**********************************************

どうしよう…。


晋ちゃんを怒らせた…。


私は晋ちゃんが帰った後、ソファにしばらく座っていた。


抱きしめられた腕のぬくもりがすごく


…暖かった。


一緒に食べた夕ご飯がとても美味しくて


…幸せだった。


ロウソクを吹き消した後の、嬉しそうな晋ちゃんの顔が見れて幸せだった。


この部屋で…今日たくさんの幸せのキスをした。


なのに…


さっきまでの幸せが


一瞬で壊れた


幸せな日になる誕生日が、


“波乱“の誕生日になってしまった。


…私のせいだ。


私が嘘なんてついたから…。

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