第17話嘘
ジャー
私は病院を出て、近くのトイレに駆け込み何度も口を洗った。
ゴシゴシ
「…違う…。あんなのキスじゃない…。」
だけど、
洗っても洗ってもあの唇の感触と、首にかかった吐息が残っていた。
どうして井上さん…、あんな事…。
手首には、さっき握られた跡があった。
その跡が、さっきの事を思い出させる。
井上さん…、力強かった…。
あんな顔…知らない…。
あんな…男の人みたいな顔…。
…だけど手首につけられた跡が、事実だ。
私は、襲われたんだ…。
どうして…?井上さん?
ずっとずっと、仕事仲間としてうまくいっていると思っていたのに…。
その時、
ピコン
LINEの通知音がなった。
LINEを開くと、全部晋ちゃんからだった。
「晋ちゃん…。」
『円花、会いたい。』
『何してんの?』
『今どこ?』
『連絡して下さい』
「こんなにたくさん…。」
けど、今の私には送る気がなかった。
そのまま自宅に向かっている時、
「円花?」
後ろから、声がした。
振り向くと、晋ちゃんが立っていた。
「晋ちゃん…。」
「こんな時間に、何してんの?」
そう言った晋ちゃんの顔は、少し怒っていた。
「ご、ごめんね。
ちょっとショッピングしてて…。
服を見るのに夢中で、連絡気付かなかった…。」
「ふーん…。そうなのか?」
その時晋ちゃんは、私を見て少し怪しんでいた。
(…バレた?)
その時、晋ちゃんが私を抱きしめた。
「晋ちゃん?どうしたの?」
「何かあったのかなって心配するだろ…。
円花全然連絡くれねえし…。」
「ご、ごめんね!」
「最近何か様子変だったから…。
もしかしてどっかで男と会って、浮気してんのかなーって疑ってた。」
その言葉を聞いて、…ドキッとした。
「そんな訳ないよー!」
「まあ円花は、そんなことしないって信じてるからな。」
「しないよ〜!」
そして晋ちゃんは、身体を離した。
「けど安心した。…ショッピング一人で行ったのか?」
「うん、そうだよー!欲しいものがあって!」
「それなら俺が、買ってやるのに…。」
「…ごめんね。女の子者だし、晋ちゃん興味ないだろうな
ーと思って…。」
「そんな遠慮しなくても、俺平気だから。
けどまあ、確かに男がいたら他の客が見づらいこともあるか。」
「ごめんね!…これからはちゃんと、連絡するね!」
「良いよ、円花が無事なら。
けどまあ、連絡出来そうな時はして。心配だから。」
「うん、分かった。」
その時、晋ちゃんがまた私を抱きしめた。
「円花は俺の彼女だからな。」
「うん」
「俺結構…独占欲強いから。
…いつだって円花のこと心配なんだよ。」
「ありがとう、晋ちゃん。」
私は晋ちゃんの服を、ギュッと握りしめた。
(ごめんね…。晋ちゃん…。)
「円花は俺を、裏切ったりしないよな?」
「うん。私、晋ちゃんを裏切るような事は絶対しない。」
「ありがとう、円花。」
そして晋ちゃんが、身体を離した。
その時晋ちゃんは、微笑んでいた。
「それ聞けて、安心した。」
「…うん。もう絶対、晋ちゃんに心配かけさせないようにするから。」
「約束な」
「うん」
そして私達は約束をした。
「今日は会えて嬉しかった。」
「私も」
「予定空いてる日あったら、また連絡して。」
「うん、絶対するね」
「円花」
チュ
そして晋ちゃんがキスをしてきた。
「おやすみ、またな。」
そう言って晋ちゃんが、私の頭をポンポンした。
「あ、うん…。おやすみ。」
そして、帰って行った。
私はしばらく、晋ちゃんの後姿を見つめていた。
その時、罪悪感を感じた。
(ごめんね…。晋ちゃん…。)
晋ちゃんがしてくれたキスが
今日は嬉しいと言うよりも、罪悪感ばかり感じた。
私は大好きな人に、
生まれて初めて、“嘘"をついた。
だから、あの後やっぱりバレてしまった…。
全て私が原因だった…。
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