第15話ピース

バシャバシャバシャ


三田倉を送っていた後、俺は雨の中を走り続けていた。


「何やってんだ俺…。何であんな事…。」


俺の手はさっき、三田倉を抱きしめたあの時の感覚がしっかりと残っていた。


「どうしたんだよ、俺…。」


❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈

❴回想❵


数時間前


円花からの連絡が最近、来なくなった。


「円花から最近連絡来ないな‥。何してんだ?」


俺は円花にLINEも、電話もした。


だけど、円花からの返事はなかった。


「何かあったのか?…円花ん家、行ってみるか。」


俺は傘をさし、円花ん家に向かって行った。


❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈❈

電柱に隠れて立ち止まっていたその時、


さっきの[井上]と言う男が走って戻って来た。


(こいつ、さっきの…!問い詰めないと!)


俺はとっさに[井上]という男を呼び止めた。


「おい!お前!」


「…え?俺ですか。」


[井上]は、突然俺に呼び止められてびっくりしていた。


「そうだよ。」


「…何ですか?」


「単刀直入に聞く。お前、円花の何?」


そいつはきょとんとしていた。


「え…。円花?」


「お前さっき、円花と相合傘してただろ?」


「あ、ああ…。三田倉ですか?」


「そうだよ。」


「俺はただの、バイト仲間です。」


「はっ?バイト?」


「ご存知じゃないですか?三田倉は今、俺と同じバイト先で働いてます。」


(何だそれ…。聞いてないぞ円花…。)


「…もしかして、三田倉の彼氏ですか?」


「…そうだよ。」


「そうですか…。」


そう言った瞬間、そいつは寂しげな顔をした。


「ただのバイト仲間が何で家まで送ってんの?」


「それは…。傘を忘れた俺を彼女。…いや三田倉さんが、声を掛けてくれて…。…風邪ひくからって言って、俺を傘に入れてくれたんです。

だから、お礼に送りました。

…けど軽率でした。すみませんでした。

俺と三田倉は、そんな関係じゃないので…。」


井上はそう言って、頭を下げた。


「…お前自身は?円花の事好きなのか?」



俺がそう言った時、井上の表情は曇っていた。


「え?いや、正直分かりません…。」


「は?」


「まだあって、間もないので…。」


「悪いけど、円花は俺のだから。」


「…分かってます。取るつもりなんてありませんから、それじゃ。」


そう言って、井上は帰って行った。


悪い気もしたが、円花の彼氏は俺だ。


絶対誰にも渡さない。


(けど、何で円花は俺にバイトの事黙ってたんだ…?)


俺の頭の中は、その疑問が残っていた。

**********************************************

【雪都side】


俺は家に帰り、着替えてベッドに寝転んだ。


「…彼氏かっこ良かったな…。」


俺とは違う。


顔も、背も、全部負けてる…。


「…勝ち目ねえじゃん…。」


…俺今、何て言った?


…何で、三田倉の彼氏に嫉妬してんだ?


…何で、こんなイライラしてるんだ?


けど、三田倉の彼氏に聞かれた、あの言葉が忘れられなかった。


《“円花の事好きなのか?"》


正直分からない…。


でも今日、三田倉が嬉しそうに彼氏の話をしていた時


こんな一生懸命な奴に思って貰えるなんて、


羨ましいと思った。


さっき車に轢かられそうな三田倉を助けた時、


俺はいつのまにか三田倉を抱きしめていた。


その時の手の感覚が、まだしっかり残っていた。


今日だってあの時、三田倉に傘を借りて帰れば良かったはずだった。


けど、俺は最初断った。


けどそれは迷惑をかけると思ったから…。


断り続ける俺に対し、三田倉はグイグイきてくれた。


…嬉しかった。


そして三田倉は、俺を傘に入れてくれた。


「俺と相合傘なんて絶対嫌だっただろうな…。」


けど、申し訳ない半分、嬉しかった自分がいた。


彼氏さんと前ではお礼に送ったとか言ったけど、


あの時だって本当は…。


俺は…。


心のどこかで、三田倉と


もっともっと…。


…近づきたいと思っていたのかもしれない…。


少しでも近く…。…側に。


今までは、ただの先輩と後輩の関係で良かった。


けど三田倉の事を知ってから、どんどんと距離が近づいて、


よく、話すようになった。


最近、三田倉と話すたびにすごく楽しくなった。


けど三田倉が、彼氏の話をするたびに


モヤモヤした自分がいた。


そして…彼氏さんとさっき初めて会った時、


嫉妬とイライラが込み上げてきた。


自分の今の気持ちが


まるで、


型に嵌め込むパズルのように


一つ一つ埋まっていった。


そして最後のピースを嵌めようとした時


俺は気づいてしまった…。


三田倉を、いつのまにか好きになっていた事に…。


けどこんな気持ちに気づいたって、どうしようもなかった…。


「ちくしょう…。どうすりゃ良いんだよ…。」


そして俺は自分の気持ちに気づいた今、


それ以上、嵌め込まないように


三田倉に対しての気持ちを


握り潰した…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る