第14話雨
あれから時が経ち、バイトにも少しずつ慣れてきた。
ミスはしてしまうけど、働く事の楽しさを知った。
井上さんとも、よく話すようになった。
休憩中、井上さんが口を開いた。
「そういえば三田倉、どこ住んでんの?」
「○○崎町です!」
「ふーん、俺と反対側だな。
ま、でもチャリで行けない距離じゃないな。」
「え?」
「中学は?」
「あ、私実は一度引っ越してて…
中学はこっちじゃないんです。
高校からこっちに戻って来たので…。」
「そうなのか。」
私も、自分のことが話せて嬉しかった。
それから私達は、色んな話をした。
「三田倉」
「はい」
「バイト初日冷たくして本当に悪かった…。ごめん…。」
「そんな…大丈夫です!私こそたくさん迷惑かけてすみません!」
「いや、三田倉は悪くない。」
「え?」
「…昔の新人従業員が、
俺に一切質問せず勝手な判断をした事があって、
一回お客様から、クレームが来たんだ。
そいつらと重ねて、三田倉を見てた。
三田倉は一切悪くないのに、本当にごめん。」
そう言って井上さんが、頭を下げた。
「井上さん…。」
「ずっと謝りたかったんだ。
今更で本当にごめん。
三田倉は全然あいつらと違ってたのに…。」
「そんな…!私はいつも、井上さんに助けられています!こちらこそたくさんご迷惑をかけてすみません…。これからもよろしくお願い致します!」
そう言って、私も頭を下げた。
「…ぷ。何だこれ」
そう言って、井上さんが笑った。
(井上さんの笑った顔、初めて見た…。)
「ふふふ」
私も、つられて笑った。
「これからもよろしくな、三田倉。」
「はい!」
そして、今日の仕事も無事に終えた。
「三田倉さんお疲れ様!上がって良いよ!」
「はい!お疲れ様でした!お先に失礼致します!」
従業員の皆さんに挨拶をし、更衣室に向かった。
着替えを済ませている時
ザーザーザー
雨の音が聞こえた。
そして私は着替えを済ませた後外に出て傘を
さした。
その時
店の屋根で、雨宿り?をして井上さんが立っていた。
私は井上さんの元へ走った。
「お疲れ様です井上さん、…どうしたんですか?」
「お疲れ、傘忘れたから、しばらく雨宿りしてる。」
「そうなんですか…。」
けど雨は、止みそうになかった。
その時私は、折りたたみ傘を持っている事を思い出した。
「あの、良かったらこれ貸しますよ!
私、折りたたみありますので、そっち使います!どうぞ。」
「良いよ、汚したら嫌だし。」
「けど雨、やみそうにないですよ?」
その時
ザーザーザー
さっきよりも、雨がだんだん降ってきた。
「……良いよ。止むまで待つ。」
(…強情だな。)
このままじゃ風邪ひいちゃうよね…。
だけど、放っておけないよ…。
私は、しばらく考えた後、
「…分かりました!じゃあ一緒に、入りましょ!」
「え?…は?」
私がそう言った時、井上さんはポカーンとしていた。
「だってそのままじゃ、風邪ひいちゃいます!入って下さい!」
「良いよ。別に」
「私が嫌なんです!」
井上さんは堪忍したように、
「…分かった。じゃあ送る…。」
そう言って井上さんは、私の傘に入って来た。
自分から言ったものの恥ずかしい…。
これ、相合傘だよね…。
だけど放っておけないよ…。
「傘、ありがとうな」
「い、いえ!」
私は目を逸らした。
(なるべく外側に…行こう。)
その時
「お前肩濡れてる。もっと寄れよ、
お前こそ風邪ひくぞ?」
そう言って井上さんは、私の肩を抱き寄せた。
抱き寄せられた瞬間、井上さんの顔が近かった。
(ち、近い!)
「悪い!」
「い、いえ!」
私達はお互い、顔を逸らした。
(き、気まずい…。…てか井上さん、私ん家と逆方向なんじゃ…。)
「…井上さん、こっち遠いんじゃないんですか?私なら大丈夫ですよ。」
「傘借りてるのに、そうゆう訳には行かないだろ。」
「…すみません。」
「おう。そういえば何で、うちでバイト始めたんだ?」
「あ、えと彼氏に…誕生日プレゼントあげたくて…。」
「ふーん…。」
「けど何あげれば良いか、まだ分からなくて…。」
「ま、俺なら何貰っても嬉しいけどな。」
「え?」
話してるうちに、自宅に着いた。
「あ、私の家ここです!送ってくれてありがとうござい…」
キキー
「キャッ!」
「危ね!」
その時私は井上さんに腕を引っ張られた。
そしてそのまま、井上さんの身体に寄ってしまった。
コロン
傘が地面に落ちた。
気がつくと、井上さんが私の身体に腕を回していた。
(抱きしめられてる…?)
「あの…。」
(井上さん?)
「わりぃ!」
井上さんは、すぐさま手を離した。
「い、いえ!」
「じゃあ俺帰るわ!傘ありがとな!」
「え、あ、あの!」
井上さんは、雨の中走り去って帰った。
「行っちゃった…。傘貸そうと思ったのに…。」
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【晋一side】
俺は傘をさし、円花の家の道を歩いていた。
その時、向こうの方で円花にそっくりな人が見えた。
「円花?いや、そんな訳ねえか…。」
けどだんだんと近づくにつれて、
…その声は円花の声だった。
そして知らない男と、相合傘をして歩いていた。
…楽しそうだった。
俺はとっさに、電柱に隠れてしまった。
「円花どうゆう事だよ…。その男誰だ?
…浮気してたのか?」
円花はそいつを、[井上さん]と呼んでいた。
俺はショックのせいか、しばらく立ち止まっていた。
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「ただいまー!」
「おかえりー!雨降ってたでしょ?」
「うん」
「傘、持っていった?」
《傘》その言葉を聞いた時、
さっき井上さんと相合傘をしたことと、
そして抱きしめられたことを思い出し、
顔が赤くなった。
「うん、持って行ったよー!」
「そ?なら良かったわ。最近台風来てるし、明日も雨かもね…。」
「そうだね…。」
自宅の窓の外を見ると、雨はまだずっと降り続いていた。
私はこの時、知らなかった。
この"雨"が降っていた時、
まさかあんな事が起きていたなんて…。
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