第13話距離

「ただいま…」


私は、靴を脱ぎリビングに向かった。


テーブルには、晩ごはんが並べられていた。


「おかえりー!今日は円花の好きなハンバーグだよー!」


「やったあー!」


私は席に着いた。


「いただきまーす!美味しい〜!」


「どうだった?バイト」


「うん!良い人ばっかりだったよー

まあ一人、苦手な人いるけど…」


「あら?そうなの?

まあ、一人くらいはそうゆう人もいるわよ」


「そうだよね!」


「…円花大学生になってから、楽しそうね」


「何で?」


「…引っ越しばかりで円花にはさんざん辛い目にさせて来たから…。

…中学ではそんな今みたいな楽しげな姿、見たことなかったからお母さん嬉しいのよ。」


「お母さん…。」


お母さんと話している時にふと、


中学2年生の時のあの記憶が蘇った。


私にはもう、忘れたい出来事だった。


「お母さん…、心配かけてごめんね…。

私は大丈夫だよ!

引っ越しは不安もあったけど、あっちでは友達もたくさんいたし、

今は幸せだから毎日楽しいよ!」


そう、今の私には友達も彼氏もいる。


だから幸せだ。


「ありがとう、円花」


それから私はお母さんと、たくさんバイトの話をした。


「明日も頑張らなきゃ!」


私はそのまま風呂に入り、就寝した。


「おはよー!」


「おはよう、今日もバイトなの?頑張りなさいよ」


「ありがとう、行ってきまーす!」


家を出ると晋ちゃんが立っていた。


「晋ちゃん!」


「おはよ」


「おはよー!いつもありがとう!」


「おう、あのさ円花、明日空いてる?」


「え、えっと…最近忙しくて…。

また連絡するね!」


「分かった。」


そして大学に着いた。


「じゃあ」


「うん、またね」


(ハア…緊張した…。けど内緒だもんね。)


そして私はゼミに向かった。


「おっはよ〜!円花」


「舞由香おはよー!」


「バイトどう?」


「うんそれがね、楽しいんだけど…。」


「けど?」


その時


「はよー。」


「おはよう、二人とも」


盟加と美菜が入って来た。


「二人ともおっは〜」


「あ、ごめんね。二人で話し中だった?」


「大丈夫だよ美菜、円花のバイトの話聞いてただけだから〜」


「どうかしたの?」


「いやー。教育係の男性が、顔全然見てくれないんだよね…。

嫌われてるのかな?

井上さんって言うんだけど…。」


「そうなの?何で?」


「は?何そいつ」


舞由香と盟加の顔が怒っていた。


その時美菜が、口を開いた。


「何か理由があるのかも…。私も似た経験あるけど、そうゆう人にはとにかく、仕事に対しての質問どんどんしていったなー…。

最初は冷たかったけど、後からすごく優しくなったよ。」


「へえ〜…そうなんだ〜…」


舞由香が唖然としていた。


「そうなんだ…。ありがとう!

美菜、私、やってみるよ!」


私は美菜にお礼を言った。


「うん、頑張ってね。円花」


そう言って美菜が、ニコッと笑ってくれた。


ゼミが終わり、バイトの時間になった。


「じゃあ、行くね!

今日早速実践してみるよ!」


「頑張れー!」


私は皆に手を振り、バイト先に向かった。


着替えを済ませ、お店の中に入った。


「おはようございます!本日もよろしくお願いします!」


「おはようございます三田倉さん!」


従業員の皆さんが、挨拶をしてくれた。


「三田倉さん、おはよう!

今日もよろしくね」


「西村店長おはようございます!はい!

よろしくお願い致します!」 


店長が立っている奥に、井上さんがいた。


「井上さんおはようございます!本日もよろしくお願いします!」


「…」


井上さんは、コクっと頷いてくれた。


(やっぱ冷たい…。けどめげない!)



「じゃあ、井上頼んだぞ」


「…じゃあ新しい仕事教えるから、こっち」


(今少し顔見てくれた!?よし!)


「で、ここを押すとこうなる…分かった?」


「あの!一つだけよろしいでしょうか?」


井上さんはびっくりしていた。


私は、美菜から教えて貰ったアドバイスを早速実践した。


出来るだけ分からない事は、すぐさま質問するようにした。


井上さんは、私がした質問に対して、丁寧に教えてくれた。


「井上、三田倉さん、休憩良いよー!」


「はい!」 


店長に呼ばれ、私達は従業員の皆さんに挨拶をし、休憩をとった。


「…どうぞ。」


そう言っ。井上さんがドアを開けてくれた。


「ありがとうございます!」


私達は向かいあって、席に座った。


(緊張する…あ!そうだ!ご飯を食べながら今のうちにメモ…見直そうかな。)


ご飯を食べながら、書いたメモを見直していると、井上さんが声を掛けてきた。


「…あのさ」


「は、はい!」


(しまった…。失礼だったかな…。)


「俺の言った言葉とか、物の場所とか、

全部書いてんの?それ。」


「は、はい!私覚え悪いので、

書かないと覚えられないので!」


「ふーん…。」


(今の…変だったかな?)


「昨日は悪かったな…。」


「い、いえ!」


そして井上さんは、スマホをいじり始めた。


美菜の言うとおりだった。


そっか…。


こうやって、どんどん質問すれば良かったんだ…。


休憩が終わり、あれから仕事内容を全部教わった。


午後からも、しっかりと質問をした。


仕事をしていて、初めて楽しいと思った。


「お疲れ様ー。三田倉さん上がって良いよー!」


「は、はい!お疲れ様でした!

お先に失礼致します!」


井上さんは、自分の仕事に戻っていた。


着替えを済ませ、従業員ドアを開けると、


井上さんが立っていた。


「お疲れ様です!

今日も有難うございました!お先に失礼致します!」


「…お疲れ。」


井上さんはそう言って、従業員入口に入った。


(挨拶してくれた!やったー!)


私は外に出た後、すぐさま皆にグループLINEで今日の事を報告した。


皆、とても喜んでくれた。


「これからも、頑張るぞ!!」


私は自転車を漕いで家に向かって帰って行った。

**********************************************

「梨絵、これ持って来たから運んどいて。」


「はいはい、あれ?何か雪都、

いつもと違う?」


「は?そんな訳ないだろ?」


「何か嬉しそうだけど〜?」


「…そんな訳…。…かもな。」


「雪都?」


「あいつは他の奴らとは違うかもな、

見直したわ。」


「えっ…?」


**********************************************

信号待ちをしていて、空を見ている時、


雲が突然、雨雲で追われて暗くなった。


「あ、雨降るかも…。急がなきゃ!」


私は帰っている間、ご機嫌だった。


今日でもっともっと、仕事が楽しくなった。


井上さんとの"距離”が少し縮まった気がして嬉しかった。


だけどそれは縮まってはいけなかったのかもしれない…。


今思えばあの雨雲は、


その警告だったのかもしれない…。



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