第11話繋がられた鎖

「じゃあねー」


あのあとゼミが終わり、私達は帰っていた。


私は皆と別れた後、昨日の事を思い出した。


「どうしよう…。涼汰君とキスをしてしまった…。

一緒に帰るべきじゃなかったのに…。」


あの時一人で帰るべきだった…。


手を離すべきだった…。


後悔していたその時、


ピコン


LINEの通知音が鳴った。


新堂さんからだった。


『大学お疲れ様!

美菜ちゃん昨日はありがとう!

無事に帰れたかな?

明日もし予定がないなら、

久々に出かけない?』


「どうしよ…。」


だけど、忘れないといけない。


私は、新堂さんが大事だから…。


そしてすぐさま、返信をした。


『ありがとうございます(^^)

新堂さん、昨日は遠い所から有難うございました!

はい!無事帰れました!

明後日大丈夫です(^^♪』


「これで良いよね…?」


文字を打っていると、遠くから私が行っていた中学の制服を着たカップルが見えた。


その二人の後姿が、私と涼汰君と重なって見えた。


私は中学の頃を思い出した…。


「懐かしいな…。」


だけど私はもう、新堂さんしか愛さない。


私はそのまま、自宅に帰った。


「ただいま、戻りました。」


「おかえりなさい美菜、あなた明日どこか出掛ける?」


「出掛けるわ、どうして?お母様。」


新堂さんとのことはまだ、両親には話せずにいた。


「私達は明日、取引先の方達との会食が入ったの、美菜はしっかり者だから、

一人で大丈夫よね?」


「大丈夫よお母様、お気をつけていって下さい。お部屋に戻りますね。」


私はお母様にそう告げ、自分の部屋に戻った。


バッグを置き、ベッドに寝転んだ。


私の家系は、病院を経営している。


父は院長で母は院長婦人。


幼い頃から両親は、忙しくあまり家には帰って来なかった…。


何不自由ない幸せな暮らしだけど、


だけど時々、この家は息が詰まる。


両親の前ではお嬢様言葉だけど、


未だにまだ慣れない。


本当は…、普通に暮らしたい。


堅苦しいこんな囲いに囲まれた暮らしなんかじゃなくて…。


普通に…。


けど、新川家の娘として生まれた以上、我慢しなきゃいけない…。


「新堂さんとのデート服、考えなきゃ…。」


私は明日の服を決め、お風呂を済ませ、


ご飯を食べ、そのまま就寝した。


そして今日、


朝になるともう、両親はいなかった。


支度をしていると、インターホンが鳴った。


ピンポーン


私はインターホンに出た。


「はい。」


「新堂です。」


「今、降りますね。」 


私は玄関に向かい、ドアを開けた。


ガチャ


「新堂さん、お待たせしました。」


「ううん、行こっか。」


「はい!」


私は新堂さんの車に乗った。


「お祭り以来だね。」


《お祭り》…その言葉を聞いた時、


私はあの時の事を思い出した。


「えっ…、あ、そうですね。」


その後私達はしばらくドライブをした後、


近くのショッピングモールに寄った。


1階を回っていたその時、新堂さんが口を開いた。


「美菜ちゃん気づいてた?今日で僕達、付き合って2年になるんだよ!」


「そうですね!ここまで一緒にいてくれて、

ありがとうございます!」


「こちらこそ、ありがとう。

だからさ、今日は付き合って2年だし、何か記念になるお揃いの物買わない?」


「良いですね!」 


その時私は、ペアリングのポスターに目をやった。


(かわいいな…。このデザイン…。)


「美菜ちゃん、入ってみる?」


「は、はい」


そして、私達はアクセサリーショップに入った。


ショーケースにはたくさんのリングが並んでいた。


(どれもかわいいなあ…。)


その時一つのリングが私の目に止まった。


(これかわいい…。)


「いかがですか?やこちらのデザインは、今カップル様にとても人気なんですよ。」


(そうなんだ…。)


「これ良いね、美菜ちゃん試させて貰おうよ」 


「そうですね。」


そして私達はお互い、ペアリングを指にはめた。


(かわいい…。)


「うん、これにしよ!美菜ちゃん!」


「はい!」


「これにします!」 


「ありがとうございます。ではこちらに署名を…。」


そして新堂さんは、ペアリングを買ってくれた。


「はい、美菜ちゃん。」


「有り難うございます!」


ペアリングには、二人の名前が入っていた。


「せっかくだから今付けようか、チェーン貰ったから。」


「はい!」


「じゃあ、後ろ向いて…」


新堂さんはそう言って、私の首元にペアリングのネックレスを付けてくれた。


「うん、似合ってる!かわいいよ。」 


「有り難うございます!」


「僕もつけて?」


新堂さんにそう言われ、私は新堂さんにネックレスをつけた。


首についた2つのリングが、キラキラ輝いていた。


その後、ショッピングセンターを徘徊し、


ディナーに行くことになった。


私達は席に着いた。


「今日もまたこうして、一緒にいれて嬉しいよ!

中々会える時間がなくて本当ごめんね…。

けどこれからは、少しでもこうして会える様に、時間作るから。」


「いえ!そんな…。私は新堂さんと一緒にいれるだけで十分なので、ムリしないで下さい!

こうして会える時間があるだけで、私は幸せですから。」


「美菜ちゃんは良い子だな。」


新堂さんはそう言って、笑った。


「え?」


「もっと僕に、わがまま言っていいんだよ?」


その時、私の胸がチクリと痛んだ。


私…。全然良い子じゃない…。


私は新堂さんを、裏切ったんだ…。


こんなに優しい人を…。


私は、ネックレスをギュッと握りしめた。


「美菜ちゃん?どうかした?」


「あ、いえ…。」


あの事を話そうとしたけど、…うまく話せなかった。


その後私達はディナーを終え、


私は、新堂さんに自宅まで送って貰った。


ガチャ


そして私は車から、降りた。


「送ってくれて有り難うございました。

今日楽しかったです。ネックレス大事にしますね。」


「どういたしまして、時間経つの早いな…。

もっと一緒にいたいのに…。」


「あの…。今日両親、会食でいないんです。

良かったらお家来ませんか?」


「え?いいの…?迷惑にならない?」


「大丈夫です。」


自分でもこんな事言ったのは、初めてだった。


だけど今日は、ずっと…


新堂さんと一緒にいたい。


私は、新堂さんを自分の部屋に招き入れた。


「お邪魔します。」


「今、お茶入れて来ますね、座ってて下さい。」


「ありがとう。」


そして新堂さんはソファに座った。


トントントン


私は一回に降り、お茶を淹れた。


コポポポ


そして淹れたお茶を2階まで運んだ。


ガチャ

「重いでしょ?貸して」


新堂さんはそう言って私からお茶を受け取り、机に置いてくれた。


新堂さんはちゃんと私の目を見てくれる…。


私をちゃんと女の子として扱ってくれる…。


涼汰君は私の目を見てくれない…。


「…どうかした?」


そう言って新堂さんが、私の目をまっすぐ見た。


「え?」


(私…新堂さんの前で何で涼汰君の事…)


「…いえ」


そして私達はお茶を飲んだ。


カチャ


その時新堂さんがティーカップを置いた。


そして口を開いた。


「…美菜ちゃん、何かあった?」


「…え?」


その時私は、見透かされてるみたいで、ドキドキしてしまった。


言えない…。言えるわけない…。


涼汰君にキスをされたなんて…。


「それは…。」 


話そうか悩んだ時、新堂さんが口を開いた。


「ごめん、困らせたね…。無神経だった。

言いたくないことなんて誰にだってあるよね…。本当ごめん。」


新堂さんはそう言って、頭を下げた。


「い、いえ!私の方こそ…。」


私は罪悪感を感じた。


悪いのは私なのに…。


新堂さんを困らせた…。


「だけど僕は君が大事なんだ。

だからこそ、君のことは何でも知りたい。

だから、本当は話して欲しい…。

だけど、話したくないなら、これ以上は聞かない。」


「新堂さん…。」


「…アルバイトから君を見ていたから分かるんだ。

君はいつも一人で抱え込んで、一人で頑張ろうとする。

確かに僕は、まだまだ未熟だし、

頼りにならないかもしれない。

だけど君の彼氏として、

力になれることは、なりたいんだ。

僕、もっと頑張るから、

だから美菜ちゃんは、

もっと僕を頼って欲しい。」


私は涙が出た。


「美菜ちゃん!?ご、ごめん僕…。」


この人はダメな私を、許してくれる。


私を、助けようとしてくれている。


「僕…、マズイ事言った?」


「…違うんです。」


《もう二度と、こんな優しい人を裏切ったらダメだ。》


私はそう誓った。


「新堂さんがそう言ってくれて、嬉しいんです…。」


「美菜ちゃん…。」


新堂さんは私を抱きしめた。


私は新堂さんの背中に、腕を回した。


そしてキスをした。


長い…キス…。


「…わがまま言っても、良いですか?」


「え?」


「今日は…ずっと、ずっと…

一緒にいて下さい…。」


「うん」


そして私達はまた、キスをした。


もっと欲しい…。


私はどんどん欲深くなり、わがままになった。


「もっと…、下さい…。」


私がそう言った後、新堂さんは私の口の中に舌を入れた。


「んっ…。」


苦しい…。けど幸せ。


「一晩中一緒にいて下さい。」


「うん、ずっといるよ。」


そう言って新堂さんは、私の頬を触り抱いてくれた。


「んっ…ハア…っ」


呼吸が乱れた。


「新…堂さん…っ」


「…ッハア…、美菜…、好きだよ。」


「 私も…、好きです。」


私は新堂さんの首に、腕を回した。


新堂さんは私を優しく、抱きしめた。


「美菜…。」


「新堂さん…。」


何度も何度も、お互い名前を呼び続けた。


「ハア…っハア…っ。」


そして何度も、身体を重ねた。


私はその後、新堂さんの腕に寝た。


「初めて聞いたな、美菜のわがまま…。

嬉しかったよ。」


新堂さんがそう言って、私の頬にキスをした。


「私も…。初めて…。言いました…。」


「愛してるよ、美菜。」


「私も愛してます、新堂さん。」


「これからもよろしくね。」


「はい。」


そう言って私達はもう一度、キスをした。


もう絶対、この人を離さない。


そう誓って…。


私達はまるで、


強く”繋がられた鎖"のように、


身体も、心も、繋がった。


そう思っていたのに…。


私は…涼汰君にされたあのキスを、


まだ忘れていなかった…。

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