第10話始まり


私は昨日の事を思い出し、何度も唇を触った。


「私、晋ちゃんとキスしたんだ!キャー!!」


嬉しいような、恥ずかしいような、


そんな気持ちだった。


でもしっかりと、唇に当たった感触が、覚えている。


私はいつもより気合を入れ、支度をした。


玄関を出ると、晋ちゃんが立っていた。


けどまだ、顔を見るのは少し、恥ずかしかった…。


私は晋ちゃんの元へ掛けよった。


「お、おはよ、晋ちゃん…。」


「あ、はよ…。」


だけど晋ちゃんの態度が、少し変だった。


(元気ない…?)


「晋ちゃん、大丈夫?」


「え、あ、うん…。」


そしてまた晋ちゃんの顔が少し、暗くなった。


(どうしたんだろう…?)


そして私達は、大学まで歩いた。


だけど、晋ちゃんはずっと暗いままだった。


そして、しばらくして大学に着いた。


「じゃあ…。」


「うん、またね。」


そして私は、ゼミに向かった。


席に座っていると、後ろから舞由香が入ってきた。


「おはよ〜円花〜!」


「おはよー!舞由香!」


「どうだった〜?花火大会〜」


「え!?」


舞由香に聞かれたその時、


私は昨日の事を思い出した。


「何何〜?その反応〜!あ~!何かあったでしょ〜?ほんと、分かりやすいよね〜

円花って」


(そうなんだ…!知らなかった!)


「な、何もないよ!

舞由香はどうだったの?」


「え~?あたしはいつも通りだよ〜!

…まあちょっと、帰り嬉しいことあったけどね〜!」


そう言った舞由香の顔は、すごく、嬉しそうだった。


「そうなんだ!」


その時、盟加と美菜が入ってきた。


「はよー」


「おはよう…。」


その時美菜の顔がいつもより少し、暗かった。


(何か、あったのかな…?)


「はよ〜!二人とも〜!」


舞由香が二人に、挨拶をした。


「美菜、大丈夫?何かあった?」


私は、美菜に聞いた。


「何かあった?祭りとかで」


盟加がそう言った瞬間、


美菜がピクッと反応し、


更に顔が暗くなった。


(美菜…?)


「ごめんね、大丈夫だよ。」


そう言って、美菜は席に着いた。


講義が受け終わり、昼食の時間になった。


私達は、食堂に来ていた。


「で、何があったの〜?円花〜?」


そう言って舞由香がニヤニヤしていた。


私は昨日の事を、皆に話した。


「え!ウソ!きゃ〜!良かったね〜!円花〜!」


そう言った瞬間、舞由香のテンションがさっきよりも高くなった。


「良かったな、円花」


盟加もニヤニヤしていた。


「良かったね、円花」


美菜も笑っていた。


「あ、ありがとう!ちょっと私、

お手洗い行ってくるね!先戻ってて!」


私は皆に伝え、お手洗いに向かった。


鏡を見ると、また昨日の事を思い出し、

顔が赤くなった。


皆に話せるのは嬉しいけど、やっぱり恥ずかしかった。


お手洗いから出たその時、


綺麗な人と、すれ違った。


(あんな綺麗な人…、

ウチの大学にいたっけ?)


その時、晋ちゃんが私の前に来た。


「円花!」


私の名前を呼んだ瞬間、


その女性が、こっちを振り向いてきた。


「晋一君?」


その人は、晋ちゃんの名前を呼んでいた。


「何でここに…。」


その時、晋ちゃんの顔がひきづった。


(…晋ちゃんの知り合い?)


その女性は、私達の所に向かってきた。


「ごめんなさい、

私の異動先がここだったの…。

秀一から何も聞いてない?」


私は黙って、しばらく二人を見つめていた。


秀兄ちゃんの名前が出た瞬間、


晋ちゃんの表情がまた曇った。


「知らない…。」


「そう…、あら、あなたは?」


「み、三田倉円花です!」


「ああ!あなたが!

秀一からよく、あなたの事聞いてました。

三田倉さん初めまして、

秀一の妻の、須藤清羅すどうきよらです。」


「は、初めまして!」


「可愛らしいわね、

秀一と晋一君が話すのも分かるわ。」


「そ、そんな…。」


「あ、もう行かなきゃ、

私、3年の教育教養の担当なの、

実習生だけどね。

これからは、大学内でもよろしくね。

三田倉さん。」


そう言って、須藤先生はニコリと笑った。


「は、はい!よろしくお願いします!」


「ふふ、じゃあね。」


そう言って、須藤先生は帰って行った。


「須藤先生、綺麗だね!」


「……」


(晋ちゃん?)


「晋ちゃん?」


「え、あ、そうだな…。悪い…。

俺、帰るわ…。」


「え?あ、うん…、またね。」


そう言って、晋ちゃんは戻って行った。


私も、ゼミに戻った。


席に着いた時、私は、さっきの事を思い出した。


(なんで晋ちゃんいつも秀兄ちゃんの名前が出ると、顔が曇るんだろう…。)


映画の時も、そうだった。


それにさっき、


須藤先生と会った時も、そうだった。


なんであんなに顔がひきつってたんだろ…?


三人の間で何かあったのかな…?


私は、晋ちゃんのことも、


秀兄ちゃんのことも、


全部分かっていると思ってた。


だけど…、


須藤先生の事になると、何も知らない…。


私は分かっていなかった。


この"始まり”が後に、


私と、晋ちゃんと、秀兄ちゃんと、


…そして須藤先生と、


いびつなこの4人の関係が、


あの事を知ってしまってから、


後から壊れていくと…。




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