第8話過去

私は、新堂さんに駅前で送って貰っていた後、


駅に向かって歩いていた。


帰りの駅は、人がいっぱいだった。


「すごい人だな…。」


そして私は改札機に向かった。


切符を買おうとしたその時、


「あ…。」


チャリン


持っていた小銭を、下に落としてしまった。


慌てて拾おうとした時、


「大丈夫ですか?」 


隣で切符を買っていた男性がしゃがみながら、小銭を拾ってくれた。


その時私は、その男性の声を、どこかで聞いた気がした。


(でもまさか…。そんなはずないよね…。)


けれど…、私の予感は当たってしまった。


「…はい、これで全部ですよね?」


男性が小銭を全部拾い顔をあげたその瞬間、


私の顔を見て、ハッとした。


「…美‥菜??」


その人は、私が中学の時に付き合っていた、


…涼汰君だった。


「涼‥汰君…。」


最後に会ったのは、中学3年生の夏。


私は中学2年生の時に、彼と付き合っていた。


当時は、付き合っているって実感がお互いあまりなかった。


結局、すれ違いが多くなってしまい


…最後は私から別れを告げた。


(こんな所で会うなんて…。)


今の涼汰君は、すっかり見た目が変わっていて、昔の面影が、全くなかった…。


だけど声は…、あの頃のままだった…。


「…久しぶりだな。」


「…うん。」


「…浴衣似合ってるな。」


「ありがとう…。」


「…」


「…」


お互い無言になってしまった。


「…これ」


そう言って涼汰君は私に小銭を渡した。


「…拾ってくれてありがとう、じゃあ行くね。」


私はそう言って涼汰君から、小銭を受け取った。


「ああ…。」


改札を出たその時、フラフラした酔っぱらいが近づいてきた。


「姉ちゃん1人〜??」


(え…、何…。怖い…!)


その時


「すみません、俺の連れなんで」


涼汰君はそう言って、私の肩を抱き寄せた。


(涼汰君!?)


「行くぞ、美菜。」


「え…?」


そう言って、涼汰君は私の手を掴んだ。


そして、どんどん進んだ。


だけど涼汰君は一向に、私の目を見なかった。


「離して!」


私は涼汰君の手を離した。


涼汰君はびっくりしていた。


「もういいから…。ありがとう…。」


私は目を反らした。


「…さっきみたいにまた、絡まれたらどうするんだよ。」


「それは…。」


「さっきは俺がいたら、良かったけど…。」


「…大丈夫だよ。」


「俺が、嫌なんだよ…。」


そう言ってまた涼汰君が、私の手首を掴みどんどん歩いた。


(こうゆう強引な所、昔から変わってない…。)


そして私達はそのまま、電車に乗ってしまった。


手首を掴まれたまま…。


「涼汰君、手離して。」


私がそう言うと、涼汰君は手を離した。


車内の中は、カップルばっかりだった。


皆、幸せそうだった。


だけど私達はもう、カップルじゃない。


お互い、車内の中では何も話さなかった。


『次は○○駅〜』


車内のアナウンスが聞こえた。


「ありがとう、じゃあ…。」


私が降りようとしたその時、


涼汰君が降りてきた。


プシュー…


『ドア閉まります』


ガタンゴトン


そして電車は行ってしまった。


「どうして…。」


駅には私達以外、誰もいなかった。


「………」


私が聞いても、涼汰君は何も答えてくれなかった。


その時、涼汰君が口を開いた。


「…送る。」


そう言って涼汰君は、スタスタ歩き出した。


「ま、待って!きゃ!」


つまずいてしまいそうになったその時、


涼汰君が、私の手首を引っ張った。


そして、私の身体が涼汰君に寄りかかった。


「ご、ごめ…!」


私がそう言って離れようとした瞬間、


涼汰君が私を抱きしめた。


「…何して!離して…!」


「……」


だけど涼汰君は、私を抱きしめたまま離さなかった。


「…やめて。」


「…嫌なら振りほどけよ。」


いつだって、涼汰君はそうだった。


勝手で、私の気持ちなんて全然考えてくれない。


ドン


私は涼汰君を突き飛ばした。


「…やめて!何でいつもそうなの?いつだってそうやって勝手で、私の気持ちなんて全然考えてくれない!」


いつだってそうやって勝手で…


だから…別れたのに…


その時涼汰君が、私の頭を掴んだ。


「!?」


「やっ…!んっ…!」


そして涼汰君が、キスをしてきた。


力強いキス…。


しばらくして、唇が離れた。


「…ッハア…。どうし…て?」


「お前と別れた後、俺はすげぇ後悔した。

何度も何度も…。どうしてお前の事、

もっと大事に出来なかったんだろうって…。」


そう言った涼汰君の顔は、今まで見たことない顔だった。


「…美菜」


名前を呼ばれドキッとしてしまう。


「こんな事言ったって、どうしようもないのは分かってる。だけど俺はまだ、お前が好きなんだよ。」


そう言って涼汰君が、まっすぐ私の目を見る。


やめて…。そんな目で私を見ないで。


ダメ…。私には新堂さんがいるんだから…。


「ごめんなさい…。私今、大事な人がいるの…。さようなら。」


私はそう告げ、走った。


「美菜!」


カランコロン


「痛!」


走っていると、いつのまにか下駄の鼻緒が折れていて、足の指から血が出ていた。 


「あ…。切れてたんだ…。」


まるで、今の私達の関係を告げたみたいだった。


そう…。私達は出会っちゃいけなかった。


彼はもう“過去“の人…。


もう関係ない…。


そう思いたいのに…。


まだ、キスをされたあの時の唇の感触が、


私の唇に焼き付いていた…。



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