第5話新しい出会い

あたしは皆と別れた後、自宅のサロンの前で待っていた。


しばらくして、涼汰が来た。


「…お待たせ、遅くなった。」


「…遅い。」


「…悪い。」


彼の名前は、香川涼汰かがわりょうた

19歳

あたしの彼氏。


高1から付き合って、3年になる。


付き合いたての頃は楽しかった。


だけど最近は、連絡も取ってないし、


こうやって会うのも久しぶり。


いつからだろう…。


こんなふうな関係になったのは…。


もう別れても良いはずなのに、未だにあたし達は別れてない。


時々、思う。


あたし達って一体何なんだろう…? 


こんなので付き合ってるって言えるのかな…?


今日の花火大会は、あたしから誘った。


もう一度昔のように、初めて二人で浴衣を着て、デートしたあの時に戻れたらって…。


ただ、それだけで良かった。


「…行こ。」


「…うん」


そう言って涼汰は、背を向けた。


もう手も繋がない。


浴衣姿のあたしを見てももう、何も言ってくれない。


(…今日の浴衣…、新しくしたのにな…。)


涼汰の手を握ろうとした時、


「…何回る?」


パッと手を振り張られた…。…そんな気がした。


「…その辺、ブラブラで良いよ。」


「分かった。」


そう言って涼汰はまた背を向けた。


そしてあたし達は、一度も手を繋がらず、


何も話さないまま、屋台を歩き続けた。


バーンバーン


花火大会の時ももう、


ずっとひたすら花火を見るだけだった。


最初はこんなの慣れていたけど、


もう辛いよ涼汰…。


なのにどうして?


呼んだら来てくれるの?


涼汰の気持ちが全然分からない…。


こんなの付き合ってたって意味ないのに…。


しばらくして、花火が終わった。


「じゃあ俺、帰るわ。」


「うん。」


そしてあたしは涼汰と別れ、歩いていた。


「やっぱりもう…、別れた方が良いのかな…。」


トボトボ歩いて帰っていると、


近くで男性がスマホを持って、キョロキョロしていた。


(どっか、探してるのかな?)


あたしは、その男性の所へ掛けよった。


「大丈夫ですか?」


その男性は近くで見ると、


…すごく、イケメンだった。


「え、あ、すみません‥ここの○○公園の場所分からなくて…。」


「ああ、その公園は反対側で、

そこのコンビニの角曲がってまっすぐいくと、近いですよ。」


「ありがとうございます!助かったあ~!」


その男性は大人なのに、クシャッとした笑顔で、


子供みたいでかわいかった。


「いえいえ!」


その時、聞いた事がある声がした。


「あれ〜?舞由香じゃん、お前また逆ナンかよ、相変わらずだな、俺の時もそうだったよな。」


「…裕弥」


涼汰と付き合う前に付き合っていた元カレ。


浮気性で、彼に荒い最低男。


(…最悪)


「邪魔しないでよ!」


「んだとこの淫乱女!誰にでも尻尾振るくせに調子乗ってんじゃねーよ!」


(もう嫌だ…。最悪…。)


「お兄さん止めといた方が良いですよ〜?

こいつ、誰にでも尻尾振る淫乱女ですから。」


(もう、終わりだ…。帰ろう…。)


そのまま帰ろうとしたその時、


手首を掴まれた。 


「え?」


「待ってください、

まだ最後まで聞いてないですよ。」


(え?教えたよね?)


「君、ご親切にどうも、けど僕はまだ最後まで道聞けてないんだ。

だから、邪魔しないで貰えるかな?」


「チッどけ!」


そう言って裕弥はわざと、わあたし達の間を通りぶつかってきた。


「きゃ!」


その時あたしはバランスを崩してしまい、コケそうになった。


(…コケる!)


「危ない!」


「あ…。」


(手首…。)


その男性はあたしの手首と腰を掴んで、支えてくれた。


「…大丈夫?」


「は、はい…。」


その時掴まれた手首が熱かった。


「ありがとうございます…。」


「怪我、してない?」


「はい…、すみません…。巻き込んでしまって…。」


「気にしないで、君の方が大事だから。」


【君の方が大事】


その言葉が、胸に響いた。


そんな事、はじめて言われた…。


「そんな事、初めて言われました…。」


気づいたらあたしは、口に出していた。


「え?」


その男性はキョトンとしていた。


「あ、いや、すみません…。」


(何言ってんだろ…。あたし…。)


その時


♪♪♪


スマホが鳴った。


「あ、ごめん会社からだ…。はい、お疲れ様です。…はい、あ、その件でしたら明日には取引先から電話が来ると…はい、はい、

分かりました。」


しばらくして、電話を切った。


「ふー…。あ、ごめんね、急に。」


「いえいえ。」


「あ、そろそろ行かないと…。」


(え、もう会えないの??)


「あ、あの!」


「ん?」


「名前教えて下さい!」


「あ、そうだよね、ここで会えたのも何かの縁だろうし…。

改めまして、新堂雅昭しんどうまさあきです。

初めまして。」


そう言って、名刺をくれた。


「ありがとうございます…。」


「君は?」


「あ、あのあたし大学生で、

村田舞由香と良います!」


「村田さんかー。

今日は助けてくれてありがとう。

またどこかで会ったらよろしくね。」


「こちらこそありがとうございました!

は、はい!」


「じゃあね。」


そしてその男性は、車で帰って行った。


あたしはしばらく、その車を見つめた。


さっき掴まれた手首が、まだ熱かった。


そしてあたしは、貰った名刺を見つめた。


素敵な人だったな。


すごく優しかった。


今まで出会って来た人とは全然違う。


あたしのこと、あんなふうに言ってくれた。


もう一度、会えたら良いなあ…。


また会いたい…。


ピコン


その時ツイッターの通知音が鳴った。


「もう一度会いたい…あの人に。」


あたしはさっきから、あの人の事ばかり考えてしまった。


どこかで繋がりがあれば…。


あたしは試しにツイッターの検索画面で、


[新堂雅昭]と入力した。


「あ!これ…!」


そして[新堂雅昭]と書かれたアカウントを見つけた。


アイコンは会社の忘年会の写真で、


そして、あの人が写っていた。


あたしは、あの人のページを開いた。


プロフィールには24歳と書かれており、


チワワの写真が載っけてあった。


「24歳かあ…、チワワ飼ってるんだ…!」


あたしはあの人の事を少し知って、


嬉しくなった。


「彼女いるのかな?」


だけど写真は忘年会の時の分や、チワワの分しか残っていなかった。


ツイートもあまりしていなかった。


もっともっと知りたい…。あの人の事を…。


あたしは思い切って、彼をフォローした。


そしてそのまま、自宅に帰った。


帰ってからも、私は何度もスマホを見つめた。


「やっぱり、そんなすぐは来ないよね通知…。」


こんなに気になったのは初めてだ。


今までは正直、恋愛にテキトーで、


誰でも良かった。


あたしを好きだと言う男子は、片っ端から付き合ってたし、ヤりまくってた。


あの頃は本当バカだった。


今は全員と連絡を切った。


しばらく時間が経ったその日の夜、


ピコン


Twitterの通知音が鳴った。


画面を開くと、新堂さんがあたしのフォローを許可してくれた。


「嬉しい!」


あたしはツイッターのDMを使って、


メールを送った。


『こんにちは、

フォロー許可ありがとうございます😁

突然送ってすみません…。

今日助けて頂いた、村田舞由香です!

きちんとお礼が言いたくて…。

メッセージ送らせて頂きました。』


しばらくして、新堂さんからメッセージが届いた。


「わ!新堂さん!嬉しい!」


『メッセージありがとう!

やっぱり村田さんでしたか。

わざわざどうも(^^)

こちらこそ、道教えてくれてありがとう!』


その時、


おばあちゃんが言っていた言葉を思い出した。


【舞由香の桜は新しい出会い】


本当だった。


おばあちゃんの言ったとおりだった。


あの人があたしの浴衣の肩の桜の柄に触れたあの時、


出会いを感じた気がした。


だけど…


その"新しい出会い“が


最悪になっていく事を、


あたしはまだ…この時知らなかった。


だから…、罰が当たったんだ…。



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