第2話 緊急会議

王が崩御したのは、密談の翌日だった。

このところ年齢のせいもあってあまり体調は芳しくなかったとはいえ、とくに変わったところはなかったため王の突然の死に城内は揺らいだ。


次の王位はどちらの王子が継ぐのか、緊急会議が開かれた。



「やはりここは年齢からいってウォルガス王子が順当でありましょう」

「いいや、ウォルガス王子の母親は側妃にすぎぬ、やはり王妃が産んだティルダス王子が後を継ぐべきでありましょう」

「いやいやティルダス王子はまだ14、王位を継ぐには幼すぎます」

「そもそもディルダス王子は、きちんとした教育は受けておらぬではないか」

「いいや、今からでも遅くはない」



意見が真っ二つにわかれてしまうため、なかなか決まりそうにない。

当然王の護衛で占星術師で魔導士でもあったチグラスも出席していたが、占術の結果は公表しなかった。



——もしかしたら王の死は何者かの手によるものかもしれぬ…——



この国の星図にも凶星が重なり、国家の異変を示していた。

そもそもチグラスに出席する義務はあれど、発言権はないに等しい。

不穏な空気はなくとも、発言できる場ではなかった。



「皆のもの、静粛に」



ここで声をあげ一同を静まりかえさせたのが、エレーニ妃の兄であり大臣であるファシムであった。



「実は先王の遺書をここに預かっておる」



そう言って懐から丸められた羊皮紙を取り出し、くるくると広げて読み上げた。



「次なる王位を第一子ウォルガスに継がせるものとする」



そのひとことにその場にいた大半の者が「おお」

と声をあげる。



——遺書は恐らく本物であろう…王の意思が変わったのは昨日、間に合うはずもない——




チグラスは、前日の密談の内容を伝えるか少し迷った。

常日頃からファシムという男を油断ならない相手と感じ取っていたので、ここは口を開かないことにした。



緊急会議の結果、ウォルガス王子が王位継承することが決定してしまい、ティグラスは今後どうすべきなのか悩んだ。



——あまり考えたくはないが、昨日の密談が盗み聞きされ王が暗殺されてしまった可能性があるかもしれないな——



大臣ファシム…。

亡くなったウォーノン王が愛した妃の兄は、

チグラスが魔導士兼占星術師で王の護衛に就いたときにはすでに勢いを増していたが、裏で国を動かすレベルにまでなっているかもしれないとは、思いもしなかった。



——本当に、ファシム殿の生年月日さえわかれば、どんな人物かわかって対策もできたのだがな…——



わからなかったものはしかたがない、こんなときこの国に物事を見通す大神官長が不在なのが痛手だった。


ナハペト王国には古くから神官を率いる大神官長が存在し、チグラスがまだ少年だったころには健在だったが、とある事件をきっかけに追放されて以来不在だったのだ。


この国の宗教は火を拝むもので、そこから神の声を聞くことができる者のみが大神官長に就任できた。



——現在いまいる神官らは、誰も彼も神の声を聞くことができないからな…聞けるとかたる輩がいないだけ、マシだが——



そんな理由わけで占星術師が重用されるようになったのだった。


王宮内にある自室に戻ったチグラスは、改めてディルダス王子の出生図と現在進行している星の動きを合わせて見ることにした。



「おお!これは、自分としたことが、迂闊うかつだった!」



思わず声をあげてしまったのは、現行する星回りがティルダス王子にとって危険なものだったからだった。


こうしてはいられない、すぐさまこの国を出なければ!



「神の使いである不死鳥よ、いでよ」



チグラスがこうつぶやくと、どこからともなく炎でできた大きな鳥がやって来て腕の上に止まった。



「ギルス・ギルスに緊急事態を告げよ」



命を受けた不死鳥は飛び立った。



——念のため受け取り人以外は姿が見えぬようにしよう——



チグラスは両手を思い切り広げ、呪文を唱えた。



——思えば自分がまだ6つのときにウォーノン王とミレーネ妃が成婚したのだったな。奴隷出身の踊り子が妃になったと、当時はえらい騒ぎだったな…数年後に外交の問題でコルトリ王国の王女を王妃として迎えねばならなくなり、さらに事態がややこしくなって、こんなことになるとはな…——



王の恋が後々こうも事態が大事おおごとになってしまうとは…。

師であるギルス・ギルスも王と元踊り子の結婚には反対だった記憶がある。



ひとまず師匠ギルス・ギルスの連絡を待つ間、ティルダス王子のもとへ行かねば…。

チグラスは、自室を後にした。





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