第11話 『見武宗にて①』


「へぇー、ここが。」

「やっぱりでけーな。」


三日ほど前にリニューアルオープンしたという大型ショッピングモール『見武宗崎みぶそうざきアウトレットパーク王都店』通称『見武宗』を、私たち二人は入口から数十メートル離れたところから見上げていた


今日は祝日の為、人が多く行動はしづらい。それでも彼がここにきたいと言ったため、わざわざ朝からこんな所にいる訳だが……


「私も職務の合間を縫ってはここに来てますがやはり大きい。原題の建築技術は凄いですね。」

「そうですね。」


何故か国王の側近である彼ふじしろさんがそこには居た。



「なんでお前がここにいんだよ。」

「買い物だ。悪いか。」

「俺らについてくる必要はねぇだろ。」

「保護者は必要じゃないか?このご時世だ、殺人鬼やら首取りがウロウロしてたら六条さんが危ないだろが。」

「目の前にいんだろが。」



私を子供扱いしているように思えるが心配してくれているのだろう。

弔木が静かになってくれるのであれば藤城さんが着いてくるのは大賛成だ。

騒がれても困るしトラブルになっても仲裁ができる。


「……チッ。ついてくることに関しちゃまぁいい。なんか奢れよ。六条もそれでいいだろ。」

「お前には奢らん。六条さん、お供しても大丈夫でしょうか?」

「はい、大丈夫です。」


ということで3人での予定も特にない何でもない休日が始まったのだった。


一応弔木にはフードを被せてマスクをさせた。そのため顔がすぐにバレる事は無くとも慎重に行動しなければ。

あぁまだ胃が痛い。本当に大丈夫だろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



【数時間後、見武宗B棟内】



「じゃ、これから別行動で」

「うん。」

「お昼にフードコートだな」


広すぎて迷いそうになるほど大きな服、雑貨などの店の多いA棟を見て回った私達はB棟に移り、昼まで別行動とすることになった。


理由としては弔木が回らなければいけない店がB棟の彼方此方にあり、全員で回ると時間がかかること、私が書店に寄りたかったという事だ。


藤城さんも何処かに行くと言っていたが詳細までは教えてくれなかった。

かなり急いでいたが何かを探してるのだろうか?


「ええと、本屋本屋……あった」


若干迷いそうにはなったがなんとか見つけることが出来た。

このショッピングモールは初めて来る人間には少々難しい地図になっている。勿論、私は初めての為、地図を片手に歩いている。


まるで寂れた商店街にあるような古びた本屋。最新鋭の設備を備えた本屋よりはこっちの方が性に合っている。


このショッピングモールがあった場所には元々商店街が立ち並んでいた。

そのため、商店街にあった店を全てこの中に内蔵したのだ。だからこんな古本屋もあるし八百屋もバーもある。


「いらっしゃい。」


店主もお爺さん。なんだか本当に落ち着く。

大型本屋のロボット店員なんかよりずっと。


「この本を探してるんですけれど……」

「ああそれなら……」


そういうとお爺さんの目が光り始める。口は開き、体は二つ折りになって周りにある杖も巻き込んでモニターのようなものへと変形した。


「書名で検索してください。」

「あ、ありがとうございます。」


余りの衝撃に一瞬言葉を失いかけたがなんとか笑顔を作って言葉を返した。

前言撤回。全く落ち着かないロボット能力お爺さんの店だった。

なんだか微妙な気分だ。私が今本を検索しているのはお爺さん。つまりずっとお爺さんをつついているのだ。

恐る恐る押して行くともう只の検索機になってしまったらしく、普通に検索することが出来た。

お爺さんはそれから一言も発しなかった。


M棚三段目左から4冊目の奥、私の探していた本はそこにあった。


「これください。」


そういうとロボットお爺さんは能力を解除し人間に戻る。つまり私が本を探してレジに持ってくるまで検索機の状態だったという事だ。

それはそれでどうかと思う。


「80円ね。ありがとさん。」


昨今の古本にしては安価な方だ。

目覚めると体が虫になってしまう本を買った。

特に理由はない。ただ何となく粗筋が面白そうだったから。それだけだった。

別に作者の熱烈なファンでもなければ凄く本を読むわけでもない私は半端に楽しんでいる。

それくらいが丁度いい。


私の今日の目標が終了したところでまだ待ち合わせには時間がある次は服でも見ようかと本屋の角を曲がる。すると何か硬い感触が私の顔に伝わってきた。


「わっ。」

「あら、大丈夫?」


曲がり角からの人にぶつかってしまったらしく、履歴書の短所欄に書けるほど私の足腰は貧弱だったため私は尻餅をついた。


ぶつかってしまったのはなんとオカマだった。

硬かったのは筋肉だったらしい。きらびやかな首飾りを下げてなにかの動物の毛皮であろう上着を羽織った彼(彼女?)はにこやかに私に大きな手を差し伸べる。


「すいません。ちょっと地図を見てて……」

「大丈夫よ。アタシこぉんなに可愛いお顔の娘にぶつかられて嬉しいわ♡怪我はない?大丈夫?」


彼(彼女?)は低い声で微笑みかける。

ぶつかって尻餅をついて立たせてもらった挙句に心配されて顔まで褒められてしまった。オカマ自体現代では少ないが彼はオカマの中でも群を抜いて良い人だろう。

私がオカマなら弟子入りしてる。



「地図見てたのね。どこか行きたいところでもあるの?良かったら教えるわよ♡」



なんと親切なオカマ。優しくて親切。貴方が聖人か。このまま迷っていても埒が明かないので私はその言葉に甘えることにした。



「えっと…この服屋なんですけど。」


「あぁ、ここね。アタシもさっき行ってきた所なんだけど分かりづらいわよねぇ。ここはこの道を真っ直ぐ行って布団屋を曲がってその先にあるゲームセンターの二つ隣よ。」


「あ、ありがとうございました。こっちが悪いのにこんなに親切にして貰って……」


「良いのよ。可愛いのに礼儀正しいなんで貴女いい子ね。いい子だし一つ良い事教えてあげるわね。」

「いい事、ですか?」


ええ、とオカマは続ける。


「この見武宗の近くの廃倉庫群、絶対近づかない方がいいわよ。それじゃあね。また縁があったら会いましょう♡」



またニコリと微笑みかけてオカマは煌びやかに去っていった。後ろ姿までもが美しく感じるほどにガタイが良く、私には後光さえ見えた。

あんなにいい人に会ったのは久しぶりだったようにも感じる。

なんて考えているうちに先程教えて貰った服屋についた。そこに居たのは弔木だった。



「……なにしてんの。」

「うおっ。なんだ……お前か。」


私が突然背後に現れたことに驚いた彼は大きく体を震わせる。

そんなに驚くことだろうか?

人の目を気にして行動してるからと言ってそこまでビクビクしなくてもいいのではないか。


「もう見終わったのか。見たいとこ。」

「うん。もう特に見るとこもないし。この荷物、半分持ってあげようか?」


彼は両手に紙袋を3個ずつ、バーゲンセールで服を買いすぎた主婦にも及ぶほどの荷物を持っていた。流石に重そうにしていたのでこういう時くらいは少し親切にしてやる。


「いや、いやいい。いやいいわ。」

「何動揺してんだよ。重いでしょ。持ってあげ」

「いやいいわ。いい。マジで。いいわ。」


動揺しすぎだろ。そこまで来ると流石に気になってくるし怪しい。何か重そうだし。

めっちゃ汗出てんじゃん。何だそれ。


「……何隠してんだ。」

「いや。何もねえよ。」


目を逸らす彼。ここまで来ると完全になにかを隠してる。そこまで隠すような事ではないと思うがそれにしても怪しい。


「見せろよ。」

「嫌だよ」

「見せろ」

「ヤダっつってんだろ」

「何もないなら見せれるだろ」

「見せねえ」

「見せろよ」


私達はこの言い合いを十数分ほど続けた。

周囲から見れば子供のような只の言い争いだ。同居者の購入したものなどどうでも良いものだろう。


だがその同居人が犯罪者の場合は違う。彼が何かを企むというのは殺人の計画かもしれない。それは例え契約期間内いまじゃなくとも、名を手にしてからということも考えられる。

そうすれば人が死ぬ。それは避けないと。


周りに人もいないことだし少々強引だが見させてもらおう。


「そいっ!」

「お前っ……」


そこまでは意図してなかったが袋を揺らしたことによって重みで紙袋の底が抜けてしまった。

流れ出す何やら細い物体。それはカラカラと音を立てて床に散らばった。

その音は流れ出した店内のロックミュージックに掻き消された。

彼の顔が少しずつ青ざめていくのがわかった。

それでも袋の中身は流れ続ける。


数にして恐らく200程。ここには店が多いことから怪しまれることはなかったのだろう。

正直ゾッとした。いくら彼でも、いくら怪しくても少しは信じていたから。


私が拾い上げたのは形がそれぞれ似通ったナイフであった。

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