第4話『はじめまして』
「説明くらいしろよ!!」
私はキレた。人生で初めて。
殴られた彼は宙を舞い、背後のベンチに頭を強打する。流れ出す大量の血。血で染まっていく地。
そこで正気に戻る。
…あれ?これマズいんじゃないか?もしかしてやってしまった?
彼は依然としてピクリとも動かない。
心臓が動いてない。死んでる。
これは俗に言う
「ついカッとなってやっしまった」とかいうアレなんじゃないだろうか。
「うわっ!」
彼の流れ出していた血がまるで生きているかのように彼の元へ集まり始める。
彼の傷口を覆って消えてしまった。
……触れていた彼の心臓が鼓動し始めた。
「…っはぁ!!何すんだクソガキ!もういっぺん殺されてぇのか!!」
「い、生きてる…」
あまりの驚きからか小学生並みの感想が私の口から飛び出す。
彼の頭からは確かにありえない量の血が流れていた。はずだった。
なぜ彼の血は動くのか。今死んだはずではないのか。疑問だけが私の頭へ入ってくる。
続々と私の頭には疑問や好奇心、恐怖やその他諸々の感情が入場してきていた。
「あ゛?何ジロジロ見てんだよ。」
「だって…今…死んで……。」
男は深く溜息をつき、頭を搔く。
周囲に人間がいないことを確認するとニヤリと笑った。
「ああ、これか。今たしかに一回死んだぞ。」
「それってどう言う…」
原理なんだ、と言いかけたがそれも彼の大きな欠伸によってなかったことにされてしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『――次のニュースです。王都連続殺人事件の"再来"です。』
ニュースキャスターの機械のような声が淡々と言葉を並べる。
『2067年に起こり、王都中を不安と恐怖に陥れた
『王都連続殺人事件』の犯人、『弔木灯哉』は5月22日に死刑となりました。ですがまたもや連続殺人事件が起こった模様です。』
『高校生を頻繁に狙い、体の一部を道端に捨てて逃亡するという新たな方法で――』
『行く場所がある』と言われ迎えの車まで用意されたため、仕方なく着いてきた車内でニュースを見る。
『王都連続殺人事件』複数回に及んで大量殺人を行ったという事件だ。
あまりの凄惨さに国民の殆どが震撼したのは記憶に新しい。
ニュースキャスターや偉そうな評論家は今回の事件も関連性があるとだけ述べて次の話題へと移った。
「意外とこの国も物騒だね。」
「……そうだな。てか俺年上だぞ。敬語はどうした敬語は。」
「知るか。殺してきた相手に使う敬語なんて使うかよ。」
至極真っ当な言い分だろう。自分を殺してきた奴に一発殴った(殺した)だけで済ませたのだから文句はないだろうし敬語なんて使う気さえも起きない。寧ろ使う理由が見当たらない。
「着いたぞ。」
明らかに高級そうな車に乗せられて来た私とこの男は王城の裏口から駐車場に入った。
「どこなの?ここ。」
「『王城』だが?」
なんでそんな『え?何?普通じゃね?』みたいな目を出来るんだろうか。
王様の側近の
なぜ私と会うのか。これから何を話されるのか。私には全く検討もつかず、ひたすらに大きく長い廊下をただ考えるだけで終わらせた。
その時間は物凄く長いようにも、ほんの数秒のようにも感じられた。
「こちらです。扉の向こうに陛下が待っておられます。」
今更だがこんな血まみれの服で良かったんだろうか。明らかに殺された後である。王様ドン引きしないだろうか。
「陛下、六条雪華様をお連れいたしました。」
「どうぞ。うわっ」
扉を開けると赤髪で眼鏡をかけたスーツ姿の細身の男性が山積みの書類をひっくり返していた。
書類の山に埋もれる中から顔を出す男性は少し微笑んだ後、掻き分けるようにして出てきた。
王というには些か若すぎるようにも見えるその男性は私に手を差し伸べる。
「初めまして、六条雪華さん。」
「あ、は、はい。」
あまり自分より高い階級の人間と関わることがなかった私は動きや言動がついぎこちなくなってしまった。
それが王様。そんなの私でなくてもぎこちなくなる。
「ははは、そんなに固くならずとも大丈夫です。学校の先生に話すような感じで良いのですよ。」
「あ、ありがとう…ございます。」
「ええ。」
また王様はニッコリと微笑んだ。
「この度は申し訳なかった。あの彼からの頼みで許可したのだがまさかプランBの方を使うとは思ってなくて……」
王様は頭を下げた。王様の言うプランというのは恐らくAは詠唱術式によるもの、Bは『最悪の場合殺して何とかする』という事だろう。
それをプランと呼ぶのだろうか。
「大丈夫です。私としても生きているならそれでいいですので…どうか頭をあげてください。」
「ありがとうございます。六条さん。
まだどこか痛かったりしません?大丈夫?」
あたふたする王様。血まみれの服で来てしまったのも何だか悪くなってきた。
「大丈夫です。服が汚れたくらいですね。」
「そうですか…良かった。服の方のお金は後で藤城に出させましょう。」
ホッとした王様は胸を撫で下ろした
そこに彼は急かすように言葉をかける。
「オウサマよ、もう本題話してもいいんじゃねえか?」
「もう、ですか?来て早々そんな話を急に持ちかけられても困るでしょう……」
「いいから話せよ。」
はぁ、とため息混じりに私の目を見た王様は『本題』
を話す。
「六条さん。今日、王城に呼んだのは謝罪ともう一つお願いがあってのことなんです。」
「お願い……ですか?」
その声は先程とは違って落ち着きがあり、雰囲気が少し重くなったのを感じた
穏やかさはなく、鋭い目付きだけがそこに在った。
ゆっくりと高くて座り心地の良さそうな椅子に深く腰掛けた王様は短く息を吸う。
「ええ。『異彩』。つまり鬼と戦闘を行うことが出来る能力者たちが競う王都の催しは知ってますか?」
「えと…たしか『王都祭』とか。」
「そう、そこで勝利した者は国から『名』が送られるのです。」
国の『彩』所有者のチームが集まり競う祭典。
王都祭はそこで勝ち抜いたものに能力者として名誉ある『名』を獲得することが出来る四年に一度の催しだ。
名を獲得した者は『王国専属』の能力者となるため多少の権力。例えば家だとか店の無料権とかそういった利益を得ることが出来る。
「――『それ』に貴方達に出場して頂きたい。それがお願いです。」
私の彩はまだ発現さえもしていない。
二つ返事で『はいでます。』とは行かない。
まだ殻に篭っている雛に飛べ、と言われてもそれは無理な話である。
「私の彩は……」
「まだ期間はありますし、初段階くらいなら発現はできると見込んでます。」
「で、でも!」
そうあたふたしていると私の隣の彼が口を開いた。
「これは俺の勝手な唯一の願いなんだ。……頼む。」
頭を下げる彼に私は少し驚いた。
まるで鬼と戦っていた時、私を殺した時の彼とは別人に見えたからだ。
あの彼がこんなにも頭を下げるのだ。余程彼にとって重要なことなのだろう。
「六条さん、私からもお願いです。このろくでなしとチームを組んであげてほしい。」
ならば承諾しないわけにいかないだろう。
そう思ってしまうほど、私は簡単な人間なのだ。
「……分かりました。そこまで言うのであれば無下に断ることも出来ません。」
「ほんとか!?」
驚き、顔を上げた彼は私を見上げる。
パッと明るい表情になった彼はまるで純粋な少年のようだった。
「ですが、私からも一つだけ。お願いしたいことがあります。」
「お願い、とは?」
「彼とのチームは王都祭限りにしてください。」
「…理由をお聞かせ願えますか?」
「だって彼は1人でも鬼を倒せます。ならば困ってる人の仲間になって手助けをしたい。」
役に立たなかった私が『彩』を獲得するということは誰かの役に立てるということだ。
ならば一人で戦える彼に私は不必要だ。
「……あぁ分かった。それでいい。だが『名』を得るまではしっかりとチームでいろ。」
「うん、契約成立だね。」
「ところで…貴方の名前聞いてなかったね。」
「言ってなかったか。じゃあ名乗ってやる。
俺の名前は――」
風が吹く。斜陽は彼を選んだ。
恥ずかしながらも『幻想的だ』なんて感情を目の前の薄汚い男に抱いてしまった。
暖かな夕陽を背に、彼は答える。
その紅い目は私だけをじっと見つめて。
「――
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