第7話 決心
「遅いわよ」
ハルヒは団長席が狭いのか長テーブルに二巻目の文芸誌、それとA4の上質紙を数枚ならべている。用紙の方は文芸誌作成の時に使った残りだろう。
着席と同時にすみやかに茶碗がそっと俺の前に置かれる。
「ありがとう、朝比奈さん」
「今日はルイボスティーです。冷え性にいいんですって」
「ここんところ寒いから助かります」
「どういたしまして」
久々のナースコスプレを着用した朝比奈さんはまさに癒やし天使だ。部室のポンコツヒーターはせいぜい足元だけだが、朝比奈さんの暖かなほほえみは俺の全身の温度を上げるってもんだ。
うっすらとした渋みのあるお茶を飲みつつハルヒをのぞき込むと、学校周辺の見取り図に細かくメモ書き入れている。カプセルが埋められた場所をいろいろと検討しているようだ。
古泉説が正しいならハルヒは埋めた場所を知っているはず。埋めた本人なんだから。そのハルヒが埋設地点を真剣に検討している。つまり知らないか、記憶から消したと言うことになる。あるいは古泉説が間違っているか、だ。
俺は黙々と作業を続けるハルヒを横目に、そろりと二冊目の文芸誌に手を伸ばす。
目次を見ると内容はいかにも高校二年生らしく時節の行事が散見され、例によって文化祭、そしてハロウィンで盛り上がったらしい。去年はやらなかったのをハルヒはしきりに残念がっていたが、二年でリベンジすることになる、のだろうか。
一通り目を通したが、ハルヒにまつわる超常現象の記載があるはずもなく、どこの高校にでも転がっていそうなありきたりな一年間だ。
……だから、なのか。
二年の終わりくらいになってハルヒはあまりにも
机に向かったままハルヒは言った。
「キョン、来週の期末テストが終わったらたらすぐさま探しにかかるわよ」
「なあ、ハルヒ」
「なによ」
ハルヒはシャーペンを動かす手を休めて俺を見た。大きな瞳には俺が何かを中断させたときに見せるイラつきはなくて、なんか……俺を観察しているようだ。
「過去の活動記録のことより今の活動の方が大切だと思うんだが。もちろん俺の言っているのはSOS団のことだ」
向かいの席にいる古泉がわずかに目を細めたのが視野の片隅に映る。朝比奈さんも微妙に動きを止めている。長門もこちらを注視しているのは間違いない。
俺は地雷原を
「文芸誌に書いてあるとおり、カプセルが校内にあったとする。中には四十年前の生徒の手紙か贈り物が入っているはずだ。それは埋めた人にとって大切なもんだろ? 問題は俺たちが開けていいもんなのかってことだ」
ハルヒは片頬を付いて俺をしばらく眺めていた。
「ねえ、キョン。あんたは自分の将来について考えたことない?」
俺は今日の宿題、来週のテスト、二年後の受験、せいぜいそれくらいだ。将来何になるとか考えられない。これだけ移り変わりの早い時代に生きてんだぜ? ……つーか、俺の質問に答えてないぞ。
「四十年前に埋めたのなら、今頃は埋めた人たちの人生も間違いなく固まっている頃よね? 文芸誌には再会を期すって書いてあったわ。必ず掘り返しに集まってくるはず。あたしはその場所に立ち会いたい。そして聞いてみたいの。あなたの人生の願いは叶いましたかってね」
ハルヒは失敗した過去を封印したんじゃないのか。
朝比奈さんの説では四年前以上にいけない。逆に向こうから――四十年前から――生きながらえて現れるというのも古泉説と矛盾する。むしろ、そのタイムカプセルを開いたとき、なんかの封印が解けてしまうような気がする。
だが俺の危惧はとんでもなく楽観主義なのが分かった。図面に書き込みをしながらハルヒは言い切ったのだ。
「もし集まった人からろくな返事がこなかったら、あたしはこのSOS団の活動を根本から見直すことにするわ。全部リセットになるくらいにね」
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